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亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

ジンルイ日記

つれづれなるままに、ジンルイのことを
2006年12月

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最終更新: 2006年12月31日
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■初詣の採点表2006 (2006/12/31)
■アフリカ重大ニュース2006 (2006/12/29)
■人類学的に気になるキーワード2006 (2006/12/27)
■『アフリカのろう者と手話の歴史』本日刊行 (2006/12/25)
■初詣の準備 (2006/12/22)
■おでん始めました (2006/12/17)
■21世紀最初の権利条約? (2006/12/14)


2006年12月31日 (日)

■初詣の採点表2006

今年の始め、学問の神様に願掛けした目標が3つあった。結果は2勝1敗、まずまずの達成です。

その中でもとくに、宿願だったアフリカのろう者に関する仕事の出版ができたので。この「1勝」にはかなりの重みがあるなあ、と一安堵する年の瀬です。

初詣で自分にできそうなことばかり願っていたら、ただの「年間作業スケジュール」になってしまっておもしろくない。逆に、かなわぬ夢ばかりつぶやいていたら、毎年「願掛けのくりこし」を続けるだけで、これまたおもしろくない。

「できそうでできないグレーゾーン」をねらうのが、初詣としては一番おもしろいのだろう。かつて「遊びで一番おもしろいのはできそうでできないこと」というようなことを言っていた人がいたが(チクセントミハイ)、そうやって一年の最初と最後を遊ぶというのが初詣の楽しみ方なんだろうと思う。

今年も数多くの方々にお引き立ていただきました。数々の出会いとご指導・ご助力に感謝しつつ。みなさま、よいお年をお迎えください。


2006年12月29日 (金)

■アフリカ重大ニュース2006

昨年の「アフリカ重大ニュース」と同様、今年もアフリカを学ぶ学生のみなさんの協力を得て、選んでみました。「アフリカ重大ニュース2006」をお届けします。

(1) エチオピア、暫定政府とともにソマリア侵攻
無政府状態が続くソマリアで、エチオピア軍の支援を受けたソマリア暫定政府軍が、武装勢力「イスラム法廷連合(UIC)」が6月から実効支配していた首都モガディシオに侵攻、制圧した(12月)。ソマリアが国際テロの温床となることを防ぎたいアメリカほか国際世論がこの作戦を支持する一方、AUは慎重姿勢を見せ、ソマリアの民衆の間ではエチオピアに対する反発の動きも。
(2) コンゴ民主共和国で初の大統領選挙
コンゴ民主共和国で初の大統領選挙実施(7月、10月)。1960年のベルギーからの独立以来、実質的には初めての民主的な大統領選挙として国際的に注目される。決選投票で、現職のジョゼフ・カビラ大統領がジャン・ピエール・ベンバ候補を破って当選(11月)。
(3) リビア、米と26年ぶりの国交正常化
アメリカがリビアとの国交正常化を表明。在リビア米国連絡事務所が大使館に昇格され(5月)、「テロ支援国家」指定を解除した(6月)。1980年の国交断絶以来、26年ぶりの正常化となった。イラク戦争開戦の影響ゆえか、リビアが2003年12月に大量破壊兵器開発を放棄したことが、今回の正常化のきっかけとなったとされる。
(4) 安保理、スーダンに初の制裁決議
国連安保理は、スーダンのダルフール紛争で残虐行為に関わったとして、スーダン軍関係者4人に対する資産凍結や渡航禁止などの制裁決議案を採択(4月)。ダルフール問題で制裁が決議されたのは初めてで、スーダンに石油利権をもつ中国は反対していたが、最終的には棄権した。人権理事会も、ダルフールへの調査団派遣を決定(12月)。
(5) 仏がルワンダ政府高官9人に逮捕状
フランス当局は、1994年のハビャリマナ・ルワンダ大統領(当時)搭乗機撃墜事件に、現職のカガメ大統領の側近が関わっていたとして、ルワンダ政府高官9人を国際手配した(11月)。ハビャリマナ大統領の謀殺をめぐるプロパガンダが、ルワンダ大虐殺を引き起こすきっかけのひとつとなっていた。国際手配に反発し、ルワンダでは反仏デモが行われた。
(6) 強制移住問題でブッシュマン勝訴
ブッシュマン(サンと呼ばれることもある)がかつて暮らしていたカラハリ砂漠からの強制移住をめぐる問題で、ボツワナの高等裁判所がブッシュマン勝訴の判決(12月)。「野生保護」を理由とした移住と禁猟の政府決定を違憲とし、ブッシュマン側の主張をほぼ認めた。
(7) アナン国連事務総長退任
ガーナ出身のコフィ・アナン国連事務総長が、10年の在任期間(1997-2006)を終えて退任(12月)。アメリカの支持でサブサハラアフリカ出身者として初めて第7代事務総長に就任し、ノーベル平和賞も受賞(2001年)。任期後半はテロとイラク戦争と親族の利権疑惑で苦労し、アメリカの単独行動に苦言を呈しつつ退任した。
(8) 小泉首相、エチオピアとガーナを歴訪
ゴールデンウィークに小泉首相がアフリカを訪問(4-5月)。日本の現職首相のアフリカ訪問は、森首相に次いで2度目。アフリカ連合コナレ委員長、エチオピアのメレス首相と会談するほか、ガーナのクフォー大統領との会談では、アフリカで医療に貢献した人を対象とする「野口英世賞」の創設を発表した。
(9) 中国がアフリカサミット開催
中国がアフリカ48ヶ国の首脳を招き、「中国アフリカ協力フォーラム北京サミット」を開催(11月)。資源、安保理、経済協力、首脳訪問、武器売買、台湾承認問題、文化事業、あらゆる面で中国の対アフリカ積極外交が目立ち、後れをとる日本の外交戦略の問題を指摘する声も。
(10) 『ダーウィンの悪夢』公開に賛否
ドキュメンタリー映画『ダーウィンの悪夢』日本公開(12月)。ヴィクトリア湖に導入された外来魚ナイルパーチとその関連産業が、現地に貧困、犯罪、環境汚染、疾病などの諸問題をもたらしているとの告発映画。ところが、アフリカの描き方に問題があるとして現地でも反発の声があり、日本でも在日タンザニア大使館が公開に不快感を示した。
(そのほか) こんなニュースもありました。
・『ホテル・ルワンダ』日本公開(1月)
・アフリカ初の女性大統領リベリアで就任(1月)
・ナイジェリアで15年ぶりの国勢調査(3月)
・リベリア前大統領テーラー氏国際法廷へ(3月)
・マラウィで日本人協力隊員のHIV啓発ソング流行る(3月)
・HIVの起源はカメルーンと判明(5月)
・ドイツW杯、ガーナ初参加で善戦(6月)
・アビジャン港で不法投棄廃棄物から有毒ガス(8月)
・ケニアのマラソン選手オツオリ氏交通事故死(8月)
・マドンナ、マラウィの子を養子に(12月)

来年も、アフリカと世界のすべての人々に幸せが訪れますように。

(協力:大阪外国語大学でアフリカを学ぶ学生のみなさん)


2006年12月27日 (水)

■人類学的に気になるキーワード2006

2006年の新語・流行語大賞は「イナバウアー」(荒川静香)と「品格」(藤原正彦)だそうです。自信喪失ぎみの日本の人々を景気づけようという善意と配慮が感じられます。

しかし、へそ曲がり人類学者はそれでは満足しません。人々を悩ませ、苦笑や当惑へと誘い、ときには神経を逆なでしたことばをも記録してこそ歴史というものです。

ジンルイ日記が選ぶ「人類学的に気になるキーワード2006」。

(第1位)「焼却処分」
受賞者: 岐阜県庁
岐阜県庁が組織ぐるみで裏金17億円を作っていたことが発覚(8月)。隠しきれなかった現金500万円を、職員が焼却したりゴミとして捨てたりした。裏金と使い込みの話は世につきないが、燃やしてしまったというのは聞いたことがない。(燃やすぐらいなら使えよ…)などという倒錯したつっこみもしたくなるほどだ。関係者は「裏金を預かった人にしか分からない気持ちがある」と語ります。カネって何だろう。結局それは、一種の紙だったということでしょうか。
(第2位)「しっかりと」
受賞者: 安倍晋三氏(首相)
安倍新内閣発足(9月)。「しっかりと改革」「しっかりと支援」…。このことばで決意表明する癖のある新首相は、就任会見で26分間に32回「しっかりと」をくりかえした。具体的な知識と戦略がないと、情緒的な表現に頼るしかなくなります。内閣のメイン・スローガン「美しい国(ウツクシイクニ)」も、逆さに読めば「憎いし苦痛(ニクイシクツウ)」だ、などとメディアに書かれるありさま。しっかりと、してください。
(第3位)「地震波」
受賞者: 気象庁
ある朝、ロシア、韓国、アメリカ、日本、世界各地で地震波が観測された(10月)。それは北朝鮮による初の核実験だったことが判明。2日後に「2度目の核実験か!?」とのニュースが世界をとびかったが、これは自然に起きた地震だった。気象庁の自然科学者による地震波分析が、国際政治を動かしている(地震にくわしくない)文系の人たちを右往左往させた。科学と社会と人間の関わりを、奇妙な形で浮きあがらせたことば。
(特別賞)「不快感」
受賞者: 昭和天皇/日本経済新聞社
昭和天皇が靖国神社のA級戦犯合祀に対し不快感をもち参拝をやめたという経緯が、元宮内庁長官富田朝彦氏がのこしたメモから明らかになったと日経が報道(7月)。かつての大元帥で、戦後の象徴天皇の地位にあった裕仁氏の心境を表わしたこの一単語は、靖国参拝をやめない小泉首相の政権末期にあって、右派も左派も巻き込んだ激論を巻き起こした。ある一人の所感とそれをめぐる報道が、歴史観、国家観、外交戦略の大問題になる、そういう不思議な情報空間に私たちは暮らしています。

来年も、言葉との出会いが楽しみです。


2006年12月25日 (月)

■『アフリカのろう者と手話の歴史』本日刊行

本日、『アフリカのろう者と手話の歴史』(明石書店)が刊行されました。

ろう者たちが、かつて世界最大級のろう教育事業をアフリカで展開していた。その活躍の歴史と現在とを描いた本です。ろう者のキリスト教団体をあつかった本がちょうどクリスマスの日に出たことには、何かの縁を感じます。

ろう者=耳が聞こえない、手話を話す人たち。

「耳が聞こえない人は非力」
「耳が聞こえない人はかわいそう」
「耳が聞こえない人はことばに不自由」

…冗談じゃありません。

壮大な国際事業を打ち立て、手話ですべてを取り仕切っていた、尊厳にみちたろう者たちについて、私はアフリカ諸国で学んできました。手話で聞けば、手話で本当のことを教えてくれる。そういうフィールドワークの成果です。本書で、ぜひその誇り高きろう者たちの姿に出会ってみてください。

※発売は2007年1月の予定です。


2006年12月22日 (金)

■初詣の準備

この時期になると、初詣の準備を始める。今から何を? それは「五円玉をいつも財布に残しておくこと」。

初詣で「ご縁」にちなんで五円玉を賽銭にしようと思っても、そういうときにかぎって五円玉を切らしていることが多い。そういうことが起こらないよう、気づいた時に小銭入れの別ポケットにしまっておくのだ。

つれあいもどうせ「ちょうだい」と言うに決まっているから、一つではなく二つ要るね。

で、さっき二つ目を確保。これで新年の準備ができました。


2006年12月17日 (日)

■おでん始めました

冬になると、毎年おでんをする。

一日食べて終わりではなく、食べては足し、食べては足し、をくり返す。それを何週間も続けるのだ。するとだんだんと味がよくなってくる。毎日火を通し、様子を見ながらちくわやダイコンや水を与えるので、「よしよし…」と何となくペットを育てているような気分になる。

この流儀を学んだのは、大学院生のときだ。毎年冬になると、研究室におでん鍋を置く先輩がいた。毎日食べては足し、火を通す。食べた人は、自分でネタを買ってきて足しておくというルール。日々のカロリーの大半をおでんで摂取するほど、一生懸命「共有おでん鍋」の管理をしていた人だった。

このやり方がおもしろかったので、私が研究室を離れた後も家でやり始め、いつしか毎冬の習慣となった。

今年も家で始めました。弁当のおかずによし、晩酌のあてによし。夜食につまんでも翌朝もたれることがない。「次はこれを入れてみるかな」と、店でのネタ選びも楽しい。弱火で煮込むだけだから、作るのも楽。それから、おでんがいつもあると、まめに弁当を作るようになる。そう、節約にもなるのです。

今年も、ひと冬世話になります。よろしく>おでん


2006年12月14日 (木)

■21世紀最初の権利条約?

12月13日(日本時間14日)、国連総会で「障害者権利条約」が全会一致で採択された。

国際条約で、障害をもつ人の社会参加が明確に「権利」と位置づけられた。「手話が言語である」と明記されたのも大きな達成だ。関係諸団体がめざしていた宿願成就、ひとまずめでたいと思う(ちなみに、この総会はコフィ・アナン事務総長退任前の最後の仕事。よい花道になりましたね)。

さて、この条約は「21世紀最初の権利条約」と報道されていたが、それってそんなにいいことだろうか?と思う。

1948年 世界人権宣言
1965年 人種差別撤廃条約
1966年 国際人権規約
1979年 女性差別撤廃条約
1984年 拷問等禁止条約
1989年 児童の権利条約
1995-2004年 人権教育のための国連10年
2006年 障害者権利条約(外務省サイトにより調査)

20世紀のうちに対処できなかったのはなぜだろう?という見方もできる。ある国の代表の発言にもあったとおり、本来であれば必要でないはずのものであって、差別が続くから設けられた条約だ。「差別への対処を21世紀にもちこしてしまった最初の案件」ということでもある。

ともあれ、この条約の精神を暮らしの中に息づかせることが、私たち一人一人に課せられた使命でしょう。「22世紀最初の権利条約!」なんてものが将来出てこないためにもね。



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