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亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

ジンルイ日記

つれづれなるままに、ジンルイのことを
2007年2月

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最終更新: 2007年2月27日
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■読みつがれる/読み捨てられる (2007/02/27)
■ブラックでいいです (2007/02/22)
■毎日新聞の書評で紹介されました (2007/02/18)
■高速バスの指定席 (2007/02/11)
■スシ・ポリスはだれを守るのか (2007/02/07)


2007年2月27日 (火)

■読みつがれる/読み捨てられる

拙著新刊『アフリカのろう者と手話の歴史』をご覧くださった方々から、反響が届き始めた。お手紙やメールをくださった方、ブログでご紹介くださった方、書評を書いてくださった方など。みなさま、ありがとうございます。

いただいたお手紙の中に、忘れられない美しいことばがあった。謝意をこめてご紹介させていただきたく思います。

アフリカのろう者の成功をうたった労作として読みつがれるのではないでしょうか。
「読みつがれる」。このことばを、私は久しく忘れていたように思う。

「読む=情報収集」「書く=情報発信」という日々の作業で、とにかく原稿を仕上げて出すことに私はしゃにむに励んできた。書けるものを書くので精一杯…という暮らしの中で、「読みつがれる」という歴史の重みにたえる仕事をすることができただろうか。

「読みつがれる」の対極は「読み捨てられる」だろう。毎年何万部も出版される新刊書の洪水の中、読みつがれる栄誉に浴する本は一握りにすぎない。

読みつがれるような本を書くことは、私にとって生涯追い続ける夢となるだろう。駆け出しの研究者にはもったいないこのことばを贈ってくださった方からは、将来にわたっての激励をいただいたのだと思っている。


2007年2月22日 (木)

■ブラックでいいです

私はブラックのコーヒーを好む人。ミルクや砂糖を入れることはほとんどなく、缶コーヒーでも「無糖」だけを買っている「無糖派層」。

お店では、砂糖などをいつも断っている。

「ミルクとお砂糖は、一つずつでよろしかったでしょうかあー」
「いいえ、ブラックでいいです

あるとき、私は気がついた。私は好んでブラックを選ぼうとしているのに、どうしてこんなへりくだった答え方をしているのだろう。お店のためにミルクや砂糖の節約に協力したいと申し出ているボランティアのようではないか。

「ミルクとお砂糖は、一つずつでよろしかったでしょうかあー」
「いいえ、ブラックがいいです

そう、決然とブラックを要求する客になることにした。客の決定権を奪還するために。

「ミルクと砂糖を一つずつ与える」ことを標準とする場の空気に飲まれる必要はないのだ。助詞の使い分けひとつでできる、これはブラックのコーヒーを愛する者のささやかな宣言。


2007年2月18日 (日)

■毎日新聞の書評で紹介されました

拙著新刊『アフリカのろう者と手話の歴史』が、今日2月18日(日)『毎日新聞』全国版朝刊の書評欄で紹介されました。[記事の全文を見る]

取り上げてくださいました記者・編集者各位、ありがとうございます。また、新聞の記事にお目通しくださった読者のみなさま、感謝申し上げます。

アフリカのろう者という「マイノリティの中のマイノリティ」が、日本の全国紙の紙上で文字になるということ自体がまれなこと。がんばって本を仕上げてよかったと思えた瞬間です。これを機に、本書の方もどうか書店などでお手に取ってくださいましたら幸いです。

『アフリカのろう者と手話の歴史──A・J・フォスターの「王国」を訪ねて』
亀井伸孝, 東京: 明石書店, 2006年12月25日


2007年2月11日 (日)

■高速バスの指定席

「高速バスの席を取る時は、トイレのすぐ前の席がいいよ」

私のつれ合い(ろう者)が、そう勧める。「席を後ろにゆったりと倒せるからね」

ふーん、そんなもんかな。高速バスに乗ることがあったとき、バス会社の予約センターに電話して、職員にこう告げてみた。

私「席は、トイレのすぐ前の所をお願いします」
職「えー。トイレの前でホンマによろしいんでっか」
私「座席が後ろに倒せますでしょう」
職「他の席も倒せますけどね。まあ、ええんでしたらそれで取っときますわ」

乗ってみた。確かに後ろは壁だから、席を倒すのに遠慮はない。ただし周囲を見てみると、他の席ももちろんリクライニングできるから、席の機能には何も変わりがない。違うのは、後ろの人に気づかいをする必要があるか、ないかだけである。

ははあ。それで分かった。

私「もしかして、後ろに人がいない方が気楽っていうこと?」
妻「うん。そう」
私「後ろの人に声をかけましょうとか、そういうやりとりが嫌なわけね?」
妻「そう、それそれ」

席の機能でもなく、空間の広さでもなく。他の乗客と困難な会話をしなくても済むという、コミュニケーションの問題だったのだ。

そんなわけで、つれ合いは高速バスに乗る時、トイレの前の席をいつも愛用している。


2007年2月7日 (水)

■スシ・ポリスはだれを守るのか

農林水産省やジェトロが相次いで導入しようとしている、海外の日本食料理店の認証制度。ワシントン・ポストはそれを「スシ・ポリス」と名付けて話題にした。

むろん「真の日本食とは何か」という議論を始めたら、コメだって日本列島原産のものではないのだからきりがない。とりあえず何らかの客観的基準を設けて評価するということは、あってもいいだろうと思う。

それよりも、私の興味は「農水省は日本国内の和食店を同じ基準でチェックする気があるかどうか」というところにある。

「回転寿司屋で、アイスクリームやメロンが流れてくるのはいかがなものか」
「米国牛肉の輸入再開まで牛丼を出せなかった店って、どーよ」

海外のレストランの評価を上げ下げしておいて、国内のクレオール状態をそのままにしていたら、二枚舌に見えるけれども。

スシ・ポリスは「何を」「だれを」守ろうとするのだろうか。その曖昧さの隙に、ナショナリズムという奇妙な怪物が宿りそうな予感がする。



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