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亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

ジンルイ日記

つれづれなるままに、ジンルイのことを
2007年3月

日本語 / English / Français
最終更新: 2007年3月28日
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■言語で分かる研究者の姿勢 (2007/03/28)
■イギリスの奴隷貿易廃止200周年をむかえて (2007/03/26)
■閉め出された同志 (2007/03/24)
■身もふたもない解説に感謝 (2007/03/22)
■聞こえる人は汚れるものなあに (2007/03/20)
■日本魚類学会の決断 (2007/03/19)
■やわらか銀行 (2007/03/18)
■永遠の夫婦漫才 (2007/03/16)
■ナイジェリア調査の結果が本になりました (2007/03/15)
■科研費で買いたいドラえもんの道具 (2007/03/13)
■ワークショップ「多文化と幸せ」(2007/03/10)
■祝・ガーナ独立半世紀 (2007/03/06)
■『バベル』に字幕を (2007/03/05)


2007年3月28日 (水)

■言語で分かる研究者の姿勢

年度末は、研究業績の棚卸しの季節。報告書などをつくるために一年間の研究をふりかえり、来年度のイメージを考える。「ゆく年来る年」の仕事版といったところです(心中では、ゴーン…と除夜の鐘が鳴っています)。

この機会に、サイトの研究業績ページ(日本語版英語版)を整理し、すべての刊行物と発表について「どの言語で書いたか/話したか」を示すことにした。

インターネットの時代、自分の研究をどこのだれが見ているか分からない。私のへなちょこ論文ですら「参照したいがどこで手に入るか」といったメールが、地球の反対側のナントカ国のダレソレさんから届くことがある。「現状では日本語論文のみです」と、ご期待に添えないこともある。そういうことはあらかじめ示しておくのがマナーなのだろう。長い目で見た一種の顧客サービスである。

自分の研究歴を眺めわたすと、あらためて気づくことがある。最近の執筆状況は「日本語のヘヴィーユーザー」なので、もう少し外国語で情報発信とアフリカへの恩返しをしないといけないなあ…と思う。

一方、「日本手話での研究会発表や講演」があんがい多く、日本のろう者への情報提供はけっこう一生懸命やってきたのだなと思う。

「どの言語で仕事をしているか」は、研究者の姿勢をよく映し出してくれる。これからも使用言語を記録して、背筋をただすための鏡にしよう。

そんなことも考えた年度末です。


2007年3月26日 (月)

■イギリスの奴隷貿易廃止200周年をむかえて

1807年3月25日。この日、イギリス議会で奴隷貿易禁止法が成立し、昨日がちょうど200年の節目にあたる。イギリスでは、歴史を思い起こすためのさまざまな行事などが繰り広げられたという(『朝日新聞』2007年3月26日)。

奴隷貿易の廃止について、まず覚えておかなければいけないことは、「奴隷貿易の廃止は、植民地支配の始まりだった」ということである。

アフリカの人々を南北アメリカまで連れて行って働かせるよりも、アフリカを人ぐるみ土地ぐるみで囲い込んで働かせた方が、得である。産業革命に成功したヨーロッパのそろばん勘定だった。

こうして、ヨーロッパ諸国は次々と奴隷貿易をやめ、人道と文明化の使命の名において、アフリカ侵略と植民地分割競争にまい進していった。

「奴隷貿易が200年前に禁止されたのに、アフリカ諸国の独立はわずか50年前。その間の150年は何だったの?」

この引き算にこめられたアフリカの歴史の重みを、私たちは忘れてはならないと思う。


2007年3月24日 (土)

■閉め出された同志

愛知県での聴覚障害者支援団体の行事に呼んでいただき、お話をする機会があった。

雨というのに、ホールいっぱいのお客様がご来場くださった。ありがとうございました。アホな私ども夫婦の暮らしぶりを、笑って見ていただけたならば幸いです。

ろう者のパートナーと一緒にご来場くださった、聴者の男性。
「私も、家を閉め出されたことがあります(笑)」

カギをドアの内側からかけられ、中にいる相手(ろう者)を呼ぶ方法が見つからないときのむなしさ。ただし、聞こえないことを承知で暮らしているのだから、相手のせいとも言い切れない。だから、苦笑するしかないという心境。

おお、同志だ、と思った。


2007年3月22日 (木)

■身もふたもない解説に感謝

私の愛読誌である『これから出る本』(社団法人日本書籍出版協会発行)。ずいぶん前の日記でもご紹介したが、新刊本の情報誌で、何百冊もの新しい本についての紹介文が1行ずつ載っている。

さて、拙著『アフリカのろう者と手話の歴史』は、どんな解説で紹介されているのだろう。

『これから出る本』2007, No.3 (2月下期号): 5.

亀井伸孝著
アフリカのろう者と手話の歴史 A・J・フォスターの「王国」を訪ねて
アフリカのろう者コミュニティとその動態を描く

た、たしかに…。

私はこういう「身もふたもないまとめ方」というのが大好きで、自分でもそういうページを作ってしまったくらい。まったくもって正しい要約を載せてくれたこの小さな紹介記事も、大切に切りぬいて取っておこうと思います。


2007年3月20日 (火)

■聞こえる人は汚れるものなあに

なぞなぞ。「耳が聞こえる人は汚れて、耳が聞こえない人は汚れないもの、なあに?」

答えは「携帯電話の画面」。

耳が聞こえない人はメールを打つのが主な使い方だから、携帯の画面はきれいなまま。一方、耳が聞こえる人は電話としても使うので、耳たぶを機械に押し当てることがある。きれいな液晶画面にべったりと汗や脂がつく

さいきん機種変更し、まっさらの携帯電話を手に入れた。さっそく汚れたのは、耳が聞こえない妻の携帯ではなく、耳が聞こえる私の携帯だった。うーむ…

いい、悪いの問題ではないけれども。こんな所に違いを発見することがある。


2007年3月19日 (月)

■日本魚類学会の決断

少し前の話になるが、日本魚類学会が一つの決断をした。差別語を含む魚の名前の改名を発表したのである。
日本魚類学会では、「メクラ、オシ、バカ、テナシ、アシナシ、セムシ、イザリ、セッパリ、ミツクチ」の9つの差別的語を含む魚類の標準和名について議論を重ねてきました。その結果、1綱2目・亜目5科・亜科11属32種を含む51タクサ(分類単位)の標準和名を改名すべきであるとの結論に達しました。(「差別的語を含む標準和名の改名とお願い」

(引用者注: この部分は学会公式サイトからの引用です。論旨を明らかにするため、語句を改変せず紹介しました)

このような動きについては、賛成や反対など意見がさまざまにあるかもしれない。ただし、旧名称の使用を避けたい水族館などが独自の言い換えをしていて名前が統一されていないなど、科学の用語として適切でない現状があるので変えることにしたという趣旨は、合理的で説得力があると思う。

とくにおもしろかったのは、この学会の「差別的語を含む標準和名の改名に寄せられたご意見に対する考え方」のページ。学会の外部の人たちから寄せられた意見に対する回答集である。

専門家が、非専門家を含む一般社会に対してどのように説明責任を果たしていくべきか、ひとつのお手本を見たような気がする。時どき読みに戻りたいと思えるページだった。


2007年3月18日 (日)

■やわらか銀行

「やわらか銀行」という新銀行を知っていますか?…というのは冗談。携帯の新会社「SoftBank」のこと。

この会社はどういうわけか買収が相次ぎ、当初の「J-Phone」がやがて「vodafone」となり、こんどは「SoftBank」となった。

全国的にはどうか分からないが、私の周囲のろう者や手話関係者たちの間では、この会社に契約する人が多いように見受けられる。手話で応対する販売員がいたり、独自の手話教室を開いたりするなど、メールを使う耳の聞こえない人たちを重要な顧客として取り込むことにもっとも積極的な会社であるように思う。

手話での呼び方も、会社名が変わるのに伴って変遷をたどってきた。

「J-Phone」は、小指で「J」をなぞる(アメリカ指文字「J」)表現が多かった。

「vodafone」の時代は、頭の右上でくせ毛を立てるように。これは会社のマークに由来するものであるという。

そして「SoftBank」。この表現がまだ定着していないらしい。そこで見たのが「やわらかい/銀行」という表現だった。ほかに、ソフトバンクのマーク「二本の水平線」をかたどった表現、指文字「S」とこの水平線を組み合わせた表現なども。

さて、どれが定着するだろう。ろう者たちの間で使いやすい表現が普及していくでしょうから、それを待ちたいと思います。


2007年3月16日 (金)

■永遠の夫婦漫才

ある駅でのこと。トイレの入口近くで、視覚障害者のための自動アナウンスが流れていた。

「こちらは、男子トイレです」
「こちらは、女子トイレです」
 …
「こちらは、男子トイレです」
「こちらは、女子トイレです」
 …
「こちらは、男子トイレです」
「こちらは、女子トイレです」
 …

微妙にちがう音源から、代わる代わる聞こえてくる二つの声。無限にくり返される、これは永遠に終わることのない夫婦漫才。

どうということはないが、どこか笑える音の風景。


2007年3月15日 (木)

■ナイジェリア調査の結果が本になりました

2006年の夏に行った、ナイジェリアでの集中的な調査。「ナイジェリア日記」(1)-(23)としてこちらでもご紹介した旅での調査結果が本になりました。

手話言語集団の膨張、ろう者の政策介入、ろう者と戦争、大学での手話講義、手話の世界の多言語問題などなど。パワフルなナイジェリアろう者コミュニティの50年史を紹介しています。

書店や図書館などでお手に取ってくださいましたら幸いです。

落合雄彦・金田知子編著
『アフリカの医療・障害・ジェンダー: ナイジェリア社会への新たな複眼的アプローチ』
(龍谷大学国際社会文化研究所叢書 4)
京都: 晃洋書房
2007年3月30日
3,300円+税
ISBN 978-4-7710-1823-5

亀井伸孝:「第7章 ろう者コミュニティと手話」(157-184ページ)を執筆


2007年3月13日 (火)

■科研費で買いたいドラえもんの道具

夢の話をひとつ。もし大型の科研費(文部科学省が交付する科学研究費)が採択されて、「研究のためにドラえもんの道具を一つ買ってよい」ということになったら、何を買うだろう。

■第一希望:「どこでもドア」
フィールドワークを仕事とする者として、これは欠かせない。ドアを開けたら、カメルーンの、ナイジェリアの、ベナンの友人たちのところにすぐ行けるんですから。その代わり、旅費は二度と請求できなくなります。

■第二希望:「もしもボックス」
社会科学の研究の弱点は、実験ができないこと。「もしもボックス」があれば、条件を変えていろいろと対照実験をすることができそうです。しかし、濫用すると迷惑でしょうねえ。

■第三希望:「タイムマシン」
過去や未来の社会でフィールドワークができる。これはすごい。考古学も歴史学もあらゆる未来予測研究も、みんな文化人類学的な参与観察調査をするようになるでしょう。

22世紀まで長生きしたら、文部科学省に申請してみようと思います。

ドラえもんのひみつ道具の中で欲しいものランキング(goo)


2007年3月10日 (土)

■ワークショップ「多文化と幸せ」

勤務先の大学で、3/11-12に若手フィールドワーカーらによるワークショップ「多文化と幸せ」を開催します。テーマは「幸福を学ぶ/幸福と関わる: その方法と倫理」。

フィールドワーカーはいつも現地でおじゃまばかりしていて、なにかのお役に立っているのだろうか。という人がいる。

逆に、人類学ほか社会調査はそもそも科学なのであって、人助けをしに来たのではないはずだ。という人もいる。

同時代の人を相手にする調査・研究が必ずぶつかるジレンマ。どちらも的を射ているから難しい。人類学の応用/実践をめぐる議論は、「私たちはいったい何しに来たのか」という核心を突いてしまう問いにいきつきます。

今回は7人の発表者を迎えて、このことをじっくり考えてみたいと思います。以上、業務報告。

関学COEワークショップ「多文化と幸せ」


2007年3月6日 (火)

■祝・ガーナ独立半世紀

2007年3月6日は、ガーナ独立50周年の記念日。おめでとうございます。

1957年3月6日、サハラ以南アフリカの植民地の中で、先陣を切って独立を宣言した国、ガーナ。これがアフリカ諸国独立のうねりをつくり出し、1960年代の新しいアフリカを生んだ。とりわけ多くの国がいっせいに独立を果たした1960年は、「アフリカの年」と呼ばれている。

つまり、今年のガーナに始まり、これから数年間は「アフリカの○○国の独立50周年」が立て続けにあるということになる。アフリカの歴史を学ぶにはよい機会かもしれませんね。

ちなみに、ガーナが独立100周年を祝うのは、2057年。そして「アフリカの年100周年」は2060年。その頃、いったいどんなアフリカになっているのだろう。それが楽しみで、長生きしてみようという気になるからおもしろい。

「ガーナ独立50周年記念式典」(外務省による解説)


2007年3月5日 (月)

■『バベル』に字幕を

聴者の女優がろう者役を演じた映画『バベル』

この映画について、もうひとつ話題になっていることがある。公開を前にして「日本語会話の部分に字幕がついていない」ことが分かったのだそうだ。つまり、耳が聞こえない人が劇場に来ることを、配給元は想定していなかった。

映画を支持し協力する人、反発する人、ろう者の中にもいろいろな立場があるようだ。しかし、日本語会話に字幕が付いていなければ、ろう者たちは内容が理解できない。まさに「かやの外」とされてしまうのである。

「結局は、聞こえる人が聞こえる人のために作った映画」…そう言われてもしかたない状況になりかねない。これは、映画の内容の是非を論じる以前の問題ではないか。

オープンかつフェアに映画を評価し、議論する機会を守るために。『バベル』日本語字幕つきの上映を、配給元および全国の映画館に求めたいと思います。

※関心のある方はこちらを。「バベルの日本語音声にも字幕を!」



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