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亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

ジンルイ日記

つれづれなるままに、ジンルイのことを
2008年12月

日本語 / English / Français
最終更新: 2008年12月31日
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■マイ重大ニュース2008 (2008/12/31)
■人類学的に気になるキーワード2008 (2008/12/28)
■赤鼻のブルー・クリスマス (2008/12/24)
■もう遊びは終わりだ (2008/12/22)
■投資で損する大学たち (2008/12/21)
■総集編「ろう者の目線 聴者の気づき」 (2008/12/20)
■A社のカレンダー (2008/12/19)
■おかたづけ、しようね (2008/12/18)
■だれでもトイレをご利用ください (2008/12/14)
■日本手話は「日本語」?「外国語」? (2008/12/13)
■還暦の世界人権宣言 (2008/12/11)
■ご都合のゆする範囲で (2008/12/10)
■そばで、うどんで (2008/12/01)


2008年12月31日 (水)

■マイ重大ニュース2008

みなさま、今年はどのような1年でしたでしょうか。私の2008年のおもなできごとを、備忘録代わりに。

(1) 東京外大の言語研修「フランス語圏アフリカ手話」(8-9月) [関連ページ]

(2) 『アクション別フィールドワーク入門』刊行 (3月) [関連ページ]

(3) はじめてのコートジボワール調査 (10月) [関連日記]

いやはや、どれも実に骨の折れる事業でしたが、それぞれ5年、10年といった長い研究活動の総まとめとしての意味もあって、すがすがしい達成感とともに振り返っています。

今年一年、お引き立てくださいましたすべてのみなさまにお礼を申し上げます。ありがとうございました。


2008年12月28日 (月)

■人類学的に気になるキーワード2008

2008年、1年を彩ることばの数かず。

今年のユーキャン新語・流行語大賞は、「グ〜!」(エド・はるみ)と「アラフォー」(天海祐希)だそうです。今年は、女性の生き方をポジティブに示すことばが選ばれたと言ってよいでしょうか。

しかし、へそ曲がり人類学者はそれでは満足しません。人びとを悩ませ、苦笑や当惑へと誘い、ときには神経を逆なでしたことばをも記録してこそ歴史というものです。

「人類学的に気になるキーワード2008」。ここでは (1) はじめちょっとびっくり、(2) しばしば不快感、違和感を生じさせるが、(3) やがて人類と社会をいろいろ考えさせられる、そういうことばを選んでみました。

(第1位)「カニコー」
受賞者: 小林多喜二氏(作家、元日本共産党員)
「おい、地獄さ行ぐんだで…」プロレタリア文学作家小林多喜二の『蟹工船』(カニコー)がやたら売れる(年中)。何十年ぶりのブーム到来に、新潮社は文庫の大増刷で応じ、日本共産党は新たな党員獲得で大奮闘。ところで、この「格差特需」の売上げはどこへいくのでしょうか。せめてその何割かは、本の出版・流通・販売などの現場で働く非正規雇用労働者の賃上げや雇用確保に寄与していることを祈りたいと思います。
(第2位)「婚活(結婚活動)」
受賞者: 山田昌弘氏(東京学芸大学教授)、白河桃子氏(ジャーナリスト)
『「婚活」時代』(山田・白河, ディスカヴァー・トゥエンティワン, 2008)が刊行される(2月)。結婚は実は就職に似ている、という視点が生んだユニークなことばであり、とりわけ、自由こそが個人に困難をもたらしているという指摘は鋭い。それにしても、結婚=自由意志=自己責任が制度化され、分析される日がこようとは。婚姻規則を群論により明晰に記述しようとしたレヴィ=ストロース氏(100)もびっくり、といったところでしょうか。そのうち「協定」「青田買い」「解禁」「内定」「内定取り消し」といったことばで結婚が語られる日も、近いのかもしれません。
(第3位)「日本語文学/日本語講演」
受賞者: 楊逸氏(作家)、益川敏英氏(京都産業大学教授)
第139回芥川賞に、中国人の楊逸(ヤン・イー)氏の『時が滲む朝』が選ばれた(7月)。日本育ちの在日外国人作家の芥川賞受賞はこれまで4人の例があったが、日本語を母語としない人の受賞は今回が初めて。日本人や日本育ちの人が書くというイメージがあった「日本文学」を越え、日本語を用いるだれもが参入できる「日本語文学」の道を拓いたといえるだろう。

一方、ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英氏は、大の英語嫌い。初の海外旅行であるスウェーデンでの受賞に当たり、冒頭に「アイ・スピーク・ジャパニーズ・オンリー」とだけ言って、後は日本語で受賞講演を強行した(12月)。日本国、日本語、日本人、日本国籍、日本育ちなどのカテゴリーを、縦横に揺るがしてくれたこの2人に共同授賞。

(特別賞)「unprepared(用意ができていない、準備なしの)」
受賞者: ジョージ・W・ブッシュ氏(アメリカ合衆国大統領)
任期切れ間近の米ブッシュ大統領が、"I think I was unprepared for war"(私は戦争への準備ができていなかったと思う)と述べた(12月)。イラク戦争の根拠となった誤情報のことを "biggest regret"(最大の痛恨事)とも。すっかりボヤキモードに入った世界最強軍の最高司令官ですが、それで殺されてしまった何十万の人びとの立場はどうなるんでしょうか。とは言っても、常に prepared(準備万端)ならよいかというと、そうでもないような気がするけれど。8割に迫ろうとする戦後最高の不支持率とともに、もうじきホワイトハウスを去る。

来年も、ことばとの出会いが楽しみです。


2008年12月24日 (水)

■赤鼻のブルー・クリスマス

どういうわけか、年の瀬の片付けごとの多いこの時期に、風邪を引いた。もうじき仕事納めだというのに。関係各位、すみません。

この風邪は、のどと鼻にくる。鼻のかみ過ぎですっかり赤くなった鼻をかかえながら、物憂いブルーなクリスマスシーズンを迎えている。それで、赤鼻のブルー・クリスマス。

そうか、かの「赤鼻のトナカイ」君は、実は鼻炎だったのかもしれないという仮説が浮かぶ。

鼻炎の同僚を笑うやつらってひどいよなあ、と思ったり、マスクをかけたら鼻が光っても夜道で役に立たないわなあ、などと心配したり。熱を出しながら思いつくことは実に貧相で、文学的想像力にはほど遠い。

それでも、風邪っ引きを含めて、聖夜は万人に訪れる。走り込むだけが師走ではないだろう。

メリー・クリスマス!


2008年12月22日 (月)

■もう遊びはおわりだ

【ニッポンのハンバーガーよ もう遊びは終わりだ】

マクドナルドの新商品「クォーターパウンダー」のキャッチコピー。これまで遊んでいたのはどこのどいつだ、とマクドナルドにツッコミ返してやりたいけれど。くやしいことに印象に残ってしまいます。

さて、「ハンバーガー」のところに他のことばを代入して遊んでみましょう。

【ニッポンの内閣よ もう遊びは終わりだ】

遊んではいないでしょうが、支持率は下がりまくりですね。どうしますか、麻生総理。

【ニッポンの憲法よ もう遊びは終わりだ】

げげ。戦後60年、すべて遊びでしたか。そうかなあ。

【ニッポンの大学よ もう遊びは終わりだ】

ほんとうに。少子化と予算削減のなか、遊んでいる場合ではありません。


2008年12月21日 (日)

■投資で損する大学たち

駒沢大学が、デリバティブ(金融派生商品)取引で154億円の損失を出したと報道された。キャンパスの土地を担保に金を借り、とりあえずしのいでいるという。

「154億」。学生や親が払う学費を年100万円とすれば、ざっと15,000人分を失ったことになる。通年1コマの非常勤講師の謝金を30万円としたら、50,000コマ分の授業が消えたことになる。年収1000万円の教授なら、1,500人分がなくなった。COEプログラムの5カ年予算を総額5億円としたら30件分が、500万円の小ぶりの科研費だったら3,000件分が、消えてしまったのである(くどいですかね)。

あーあ。154億あれば、教育でも研究でも何でもできるではないか。金融の闇に大枚が飲み込まれてしまった後に悔やんでも、もう遅い。

ことは駒沢大学だけではないそうで、土地があってリスク管理の甘い大学はカモにされやすいという話も聞く(「18私大、有価証券含み損688億円」2008年12月21日, 読売新聞)。

いやはや、桁の大きさを指折り数えていても始まらない。新しい知識と人材を生むという本業のため、大学の「実体経済」に即した経費の適正使用を心がけよう。そう心に刻んで、私は今日もぼつぼつと机に向かう。


2008年12月20日 (土)

■総集編「ろう者の目線 聴者の気づき」

2008年の年の瀬、いち早く「2009年」の日付で刊行された本が届いた。一番乗りは『NHKみんなの手話』のテキスト。

番組で、私ども夫婦の本『手話でいこう: ろう者の言い分 聴者のホンネ』をご紹介いただいたことがきっかけで、初めてNHKテキストの巻末エッセイを依頼されたのが2007年の秋。さらに1年間延長となり、ろう者の妻+聴者の夫というコンビで、計5回の連載をお引き受けした。

「手話を覚えることプラスワンの気づきにようこそ!」というキャッチフレーズで、語学だけではない手話とろう者の文化の奥深さを示そう…というほどの覚悟もなく、まあ、例によって、ろう者と聴者の暮らしが引き起こすできごとネタの「切り売り」。それでも、最後まで何とかやりとげることができたのは、ひとえに読者のみなさま、編集部各位のおかげです。

今回、最後の掲載号を受け取り、連載はぶじに終了。NHK出版のみなさま、よい機会をありがとうございました。読者のみなさま、駄文にお付き合いくださりお礼申し上げます。

総集編といたしまして、これまでのエッセイタイトル一覧を以下にご紹介いたします(関心のある方は、書店やNHK出版のサイトなどでご入手ください)。

(1)『NHKみんなの手話 (2008年1月-3月)』80-83ページ
「ろう者の言い分 聴者のホンネ」秋山なみ(ろう者)・亀井伸孝(聴者)
 ■物音: 当時をふりかえって(秋山)/■物音: 当時をふりかえって(亀井)/■閉め出し: 当時をふりかえって(秋山)/■閉め出し: 当時をふりかえって(亀井)
(2)『NHKみんなの手話 (2008年4月-6月)』74-78ページ
「ろう者の目線 聴者の気づき」秋山なみ(ろう者)・亀井伸孝(聴者)
 ■高速バスに乗るときは(亀井)/■地名の覚え方(秋山)/■映画館にて(亀井)/■お気に入りのレストラン(秋山)
(3)『NHKみんなの手話 (2008年7月-9月)』74-76ページ
「ろう者の目線 聴者の気づき」秋山なみ(ろう者)・亀井伸孝(聴者)
 ■接客現場の一期一会(秋山)/■車の窓を開けた営業マン(亀井)/■補聴器を過信するべからず(秋山)
(4)『NHKみんなの手話 (2008年10月-12月)』74-78ページ
「ろう者の目線 聴者の気づき」秋山なみ(ろう者)・亀井伸孝(聴者)
 ■ろう者と英語(秋山)/■手話通訳士を目指した理由(亀井)
(5)『NHKみんなの手話 (2009年1月-3月)』74-76ページ
「ろう者の目線 聴者の気づき」秋山なみ(ろう者)・亀井伸孝(聴者)
 ■いつの時代も手話とともに(秋山)/■アフリカの魅力に学ぶ(亀井)


2008年12月19日 (金)

■A社のカレンダー

学術書で有名な、とある出版社がある(要望が殺到したりするともうしわけないので、仮に「A社」としておきましょう)。

この会社は毎年すてきなカレンダーを作っていて、本の著者などの関係者に配布している。

A社のカレンダーは、実は私にとって長らくあこがれの的だった。市販はしていないので、もっている人は限られる。有名教授たちの研究室に、よくこれがかかっているのを見ていたので、「あー、これは偉くなったらもらえる物なんだ」と思っていた。

いくつかの偶然が重なり、A社で原稿のお世話になることがあって、去年初めてそのカレンダーをいただいた。え、それってあのカレンダーですか。私ごときがいただいていいのでしょうか。申し訳ないような気持ちにもかられる。

2008年の正月、それを研究室の壁に貼った。はげしかったこの1年間の日々の業務を、そのカレンダーとにらめっこしながらこなしてきた。

今年も、2009年のカレンダーをいただいた。ありがとうございます。来年も、これを座右に見据えながらがんばろう。

A社のみなさま、恩義は忘れません。末長いおつきあいを、どうかよろしくお願いいたします。


2008年12月18日 (木)

■おかたづけ、しようね

といれがおわったら、ちゃんとながそうね
ごはんをたべたら、おさらをかたづけようね
せんたくきがとまったら、すぐにほそうね
おともだちとけんかしたら、ちゃんとあやまろうね
かりたものは、かえそうね
でーたをもらったら、すぐにろんぶんにしようね
ほんをいただいたら、おれいをいおうね
やくそくしたら、ちゃんとげんこうをだそうね
おせわになったひとに、ほんをとどけようね
おしえてくれたせんせいに、ありがとうといおうね

 (出典『おかたづけ、しようね: 3さいからのけんきゅうしゃきょういく』)

いててて…(ひとりごと)


2008年12月14日 (日)

■だれでもトイレをご利用ください

ある駅でのこと。トイレに立ち寄ろうとしたら、清掃中の表示が出ていた。

男子トイレ清掃中
だれでもトイレを
ご利用ください。

そうか、だれでも使っていいのか。そう思って入ろうとしたら、清掃員のおじさんが怪訝な顔。

1回、2回、3回。何度も表示を読み返して、やっと理解した。「だれでもトイレ」、つまり、車いすなどでも入ることができる個室の方へ行ってくれということだったのだ。

かつて「障害者トイレ」「車いすトイレ」などと呼ばれていたものが、最近では「多機能トイレ」「多目的トイレ」「だれでもトイレ」などへと言い換えられているらしい。「特定の人たち専用ではありません」という意味を込めているのだろうか。

その趣旨は分かるけれども、とっさに理解できませんよね。とくに、文章に紛れ込んでしまったときには。


2008年12月13日 (土)

■日本手話は「日本語」?「外国語」?

研究者を対象とした、とある一斉調査があった。質問紙で、これまでの学会発表などの件数を「言語別に」記入するよう求められる。

「学会発表: 日本語[ ]件 外国語[ ]件」

おや。日本手話での学会発表は、どちらになるんでしょうか。
日本手話は「日本語」? それは違うでしょう。
日本手話は「外国語」? いや、それも違うでしょう。

日本手話は、ほかならぬ日本に分布している、日本語とは異なる言語である。この二択では、日本手話の行き場がなくなってしまう(その意味では、たとえばアイヌ語での学会発表も、同じような扱いを受けていると言える)。

最近、ろう者の研究者が、日本手話で学会発表をすることが増えてきた。聴者の手話研究者が、発表言語として日本手話を選ぶことも見られるようになった。日本手話のみを公用語とする学会があり、いくつかの学会では手話通訳者の確保に労力を割き、手話通訳者たちは学会通訳がこなせるよう研鑽を重ねている。日本手話を学術の言語として位置づけようとする学界のさまざまな動きと努力が、まるで想定されていないとすれば、なんとも残念なことではないか。

調査実施機関は「日本手話については、今回の調査については便宜上『日本語』に含めてください」という立場をとっている。

苦労して日本手話を覚え、手話での成果公開を積み重ねてきたひとりの聞こえる研究者として、次回は実態を正しく把握する調査がなされることを、心から願っている。


2008年12月11日 (木)

■還暦の世界人権宣言

「世界人権宣言」が、1948年12月10日の第3回国連総会で採択されて、昨日でちょうど60年。還暦を迎えました(日英の全文はこちらで読めます)。

論語風にいえば「六十にして耳順ふ(みみしたがふ)」。つまり、ようやく人の言うことを素直に聞けるようになるという歳である。おいおい、人権宣言が「ものわかりよく」なってどうする、と言いたくもなるけれど。

「第1条 すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と始まるこの宣言は、そこらじゅうが植民地にされていたその時代における、なんともラディカルなものである。

それにしても60年、いろいろありましたねえ。「平等」の御旗を掲げたはずのソ連ほか社会主義国は、軒並み倒産するし。「自由」の頭目だったはずのアメリカは、自由の名で戦争を起こしまくったあげく、今や民間企業を公金で救済するのにてんてこまい。平等って何? 自由って? ずいぶん頭を悩ませたことでしょう。

それでも、地上のほとんどは独立国となり、女性首相や黒人大統領が現れ、障害をもつ人たちの権利が国際政治の表舞台で議論されるようにもなった。単純な進歩を信じるほどこっちもお人好しではないけれど、その時どきに理想を掲げ、それを受け継いで努力を続けてきた人びとの「積み重ね」は、大した力になるものだと思うことがある。

さあ、もう一仕事しますか!人権宣言さん。シニアライフなどと言うには、まだまだ早いですから。


2008年12月10日 (水)

■ご都合のゆする範囲で

誤字ネタです。

ある方からの原稿依頼メール。
「原稿の執筆をお願いします、ご都合のゆする範囲で」

うわ、ゆすられてしまった!

ゆすられたら、もう、おっしゃる通りに書くしかありません。(涙)


2008年12月1日 (月)

■そばで、うどんで

立ち食いそば屋で、いつも気になることばがある。

たとえば「かけ そば・うどん」という食券を出すとき、客たちがみな決まってこう言うのだ。

「そばで。」
「うどんで。」

この「で」は、何なんだろう。「そばで」何を作ってほしいの? 「うどんで」何をしてほしいわけ? 本来の主役たるそばやうどんが、あたかも手段のようではないか。

「そばをください」
「うどんをお願いします」

そばやうどんを真正面に注文してみよう、と私は提唱したいと思います。



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