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亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

ジンルイ日記

つれづれなるままに、ジンルイのことを
2019年12月

日本語 / English / Français
最終更新: 2020年1月1日

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■2019年を振り返って (2019/12/31)


2019年12月31日 (火)

■2019年を振り返って

今年も暮れゆきます。結局、あんまり長文の日記を書かなかった1年ではありましたが、ジャンル別にこの1年を眺め渡してみました。

□研究面:刊行
日本語の論文をあまり書かなかったな…という思いが強く残る年末です。

第8回世界アフリカ言語学会議(WOCAL8)の全体講演(原文は英語)を元にした論文をフランス語訳し、ついに刊行することができた。共著だが、私にとって初めてのフランス語の長文の刊行物。喜んで、フランス語圏の知人たちに謹呈した。

Sanogo, Yédê Adama & Nobutaka Kamei. 2019. "La promotion de la recherche sur la Langue des Signes par les communautés des Sourds africains : cas de l'Afrique de l'Ouest et de Centre francophone"『共生の文化研究』(愛知県立大学多文化共生研究所) 13: 5-16.

国際会議で全体講演を行ったのは、2015年。同年中に、日本手話学会の『手話学研究』に日本語訳を掲載。2年かけて査読を経て、2017年に同会議の報告論集 Proceedings of the 8th World Congress of African Linguistics英語版を掲載。さらに2年かけてフランス語訳して、2019年の今回の達成。

やはり、ひとつの言語に翻訳して完成させるまで、2年ずつくらいはかかるのだなあ。それでも、足かけ4年で、日英仏という、自分の研究の重要な作業言語三つのすべてで刊行を終えたことは、それなりの達成感があった。

もうひとつ、刊行物としては、学科の同僚たちと共著の論文をひとつ出した。国際関係学科の特徴ある授業「プロジェクト型演習」を導入して3か年の節目に、それを担当する教員たちで、これまでの達成を振り返るものを書いた。

亀井伸孝・宮谷敦美・東弘子・髙阪香津美・松林康博・草野昭一. 2019. 「愛知県立大学国際関係学科「プロジェクト型演習」実践報告: 2015〜2017年度の3か年の取り組み事例」『愛知県立大学外国語学部紀要: 地域研究・国際学編』(愛知県立大学外国語学部) 51: 173-199.

フィールドワークを含む教育の数かず。国際関係学科創設10周年の年に、よいまとめとなったと思う。

□研究面:発表
コートジボワールのアビジャンで開催された、西アフリカ言語学会 (WALS/SLAO) 主催・第31回西アフリカ言語会議 (WALC2019) に参加、発表してきた

Kamei, Nobutaka. 2019. African sign languages in world history: Through the comparison of LSF, ASL, LSQ and LSAF. In: the 31st West African Languages Congress (WALC2019) organized by the West African Linguistic Society (WALS/SLAO), Panel 5: Sign languages and psycholinguistics (August 12, 2019, Félix Houphouët-Boigny University, Cocody, Abidjan, Côte d'Ivoire).

在外研究を終え、同国をおいとましてから、約2年。旧知の知人たちに再会できたのもよかったし、あわせて世界遺産グランバッサムを初めて訪問できたこともよかった。

また、日本文化人類学会関係の役割として、ふたつの大きな事業を担当した。ひとつは、人類学関連学会協議会 (CARA) の合同シンポジウム。東北大学で開催された大会の全体シンポジウムを主催する役割を担い、約300名の参加者を得て、人類学分野の社会との対話のありかたをテーマにした行事を開催。分野越境的かつ実践的な議論を引き起こすことができたと思う。

第14回人類学関連学会協議会 (CARA) 合同シンポジウム「社会と対話・協働する人類学: その可能性と役割」(主催:日本文化人類学会) (2019年6月1日, 宮城県仙台市青葉区, 東北大学川内キャンパス).

もうひとつは、日本と台湾の人類学者どうしの対話という趣旨で、台湾人類学・民族学会の大会にお招きを受けたこと

Kamei, Nobutaka. 2019. Anthropological commitments to the society and collaborations with minorities: In the era of "post-Writing Culture shock." 台湾人類学・民族学会2019年大会 (臺灣人類學與民族學學會2019年會) 主題ラウンドテーブル「人類学機関の未来: 台日対談」(主題論壇「人類學機構的未來: 台日對談」) (2019年9月28日, 台湾, 台北市南港區, 中央研究院 (Academia Sinica) 民族學研究所).

ここでも、テーマは人類学の実践性であった。近年は世界どこでもそのような風潮が強くなっているのだな、と確信。貴重な機会となった。

□教育面
今年の授業における新しい試みとして、4月から毎週行ってきたのは、「アフリカ研究」「文化人類学」の授業で、必ず時事ニュースを取り上げるということ。

常に同時代の社会の諸課題とともにある学問でありたい、などと言いながら、ニュース解説ひとつできない研究者であってはならない、という自戒とともに、毎週、新しいニュース記事を印刷しては、最初の5分くらいで解説するということをした。

アフリカ関係のニュースも、掘り起こせばかなりあるし、文化と人間をめぐる話題も、何だかんだ言って毎週のように世界で発生している。

Twitter などで流れてくる雑多なニュースを、読み流すだけでなく、背景も調べて解説する。そうする中で、かなり同時代へのアンテナを張ることもできたし、背景知識も得ることができた。学生にも好評。これは、来年も続けてみたい。

□学内業務面
グローバル学術交流事業推進委員会副委員長ということで、「グローバルヒストリー」を共通テーマとした連続講演会を担当。海外ゲストの招聘も含めて、今年はかなりこのことに時間を費やした。

表にはできない苦労も重ねたが、苦労のかいあって、学生たちもまじめに勉強してくれたし、同僚たちともいろいろ議論できたし、著名な研究者の人たちと知り合いになれたし、まあいい経験であった。

それから、これは細かいことはまだ書けないのだが、大学の将来構想関係のメンバーに指名され、断続的な会議とプレゼンとインフォーマルな折衝のなかで、「ぼくのかんがえたさいきょうのだいがく」みたいな妄想めいた話をまじめに議論する機会に恵まれた。この大学に着任して8年半、いつまでも自分のことだけちまちまとやっている身でもないのかなという感じになってきた。同僚たちと、日々の些末な業務とは違う、気宇壮大な話をする機会があったのも、少々気分転換にはなった。

□社会貢献面
これが今年の最大の仕事。文部科学省のミュージアム「情報ひろば」で、学生たちと企画展示「フィールドワーク写真展: 世界の〈いま〉を切り取る学生のまなざし」を開催。あわせて、サイドイベントとしてのシンポジウム「アクティブ・ラーニング教育実践の10年: 愛知県立大学国際関係学科の挑戦」を開催した

2018年の夏頃に公募に応募して、秋に採択され、1年がかりでの大がかりな準備。予算が本当にないなか、何とかいろんな学内資源を組み合わせて達成した。国際関係学科設立10周年を飾るよい機会となったし、あわせて、本学科のフィールドワーク教育・実践を全国に発信するまたとない機会となった。

□社会に対するコメント
Twitter では、今年もいくつかの問題に口を挟んでしまった。

・「令和」発表会見で、手話通訳が「めいわ」と誤表現。官邸側の情報非開示の姿勢を問題視し、いくつかのメディアの取材を受けた。

・G20大阪首脳会議における、「大阪城のエレベータ設置はミスだった」という趣旨の首相発言。これは取材は受けなかったが、苦言を呈した連続ツイートが、いくつかのネットメディアに引用されていた。

・あいちトリエンナーレと表現の自由、検閲の問題。地元であるという意識もあり、また芸術と学問の両方に通じる問題でもあり、切実感をもって意見表明した。

1,000リツイートを超えることが毎月何回かあった。やはり少し驚いた。ふだん、がんばって授業でしゃべったって、自分の声が届くのは、最少3人、最多で約100人といったレベルである。自分の放ったことばが、多くの方がたに関心事として受け止めていただけるのは、幸いなことである。

しかし、こう何度も続いていくと、やはり影響力というものを考えずにはいられないし、不正確な軽口で周囲に余計な迷惑がいってもいけないし。「私的な軽いつぶやきだから…」は、もはや言い訳にならないと自覚する。

そんなことで、今年はとくに中盤から、自ずと「自重」路線をたどることになった。よく調べて、裏を取り、ことばを選んで、誤読の生じないような文字列を。個人攻撃は控え、状況に対する批評を。ほとんど、ひとり報道機関のような感覚になっている。

2019年12月25日で、Twitter 開始10年となった。面白くても面白くなくてもいいから、地味に大事な情報がたえずある、という境地を目指したいと思う。

□私的なことがら
2月の卒業論文口頭試問をすべて終えた日の晩、自宅で倒れて緊急入院、から始まった今年は、体調が万全というわけでなく、心苦しくもいくつかの予定していた仕事をお断りすることもあった。ご面倒をおかけしたみなさまに、おわび申し上げたい。

また、疲れがちな体を気づかって、外出を控えた結果、在宅の時間帯が多くなり、少し運動不足となったかもしれない。

健康を気づかいつつ、仕事の入れ過ぎに注意しつつ、少し体を動かし、ペースを作って、日本語の原稿を多めに書く年に、次はしたい、と思っている。

新幹線乗車回数: 45回
航空機搭乗回数: 6回
訪問先: コートジボワール、フランス、台湾

Tweets: 約1.3万
Follow: 569
Followers: 18,402

みなさま、よいお年を。

【付記】大晦日の晩の1年振り返り気分のなか、2019年のアフリカニュースダイジェストを10件選んでみました。こういうのをメモしておくと、来年の教材に転用できたりするから便利である。以下、順不同、私的偏向あり。

・エチオピア首相にノーベル平和賞
・スーダン大統領失脚
・ムガベ氏死去
・アフリカ大陸自由貿易圏発効
・西CFAフランがエコへ
・モザンビークでサイクロン災害
・マラリアワクチン開始
・エボラワクチン開始
・ラグビーW杯南ア優勝
・TICAD7



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