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亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

科研費若手研究 (A)
「ろう者の人間開発に資する応用言語人類学的研究:
アフリカ諸国の手話言語と社会の比較」

(2009-2012年度, 研究代表者: 亀井伸孝)

日本語 / English
最終更新: 2010年1月2日

2009年4月に採択された、日本学術振興会科学研究費補助金・若手研究 (A)「ろう者の人間開発に資する応用言語人類学的研究: アフリカ諸国の手話言語と社会の比較」の公式サイトです。

・このページは、文部科学省および日本学術振興会による公式の情報公開を補足するものとして、本科研費研究代表者である亀井伸孝が開設しました。したがって、このページの記載事項の文責は亀井個人にあります。

・公的資金により行われる研究の状況を本サイトで公開し、(a) 進捗報告、(b) 成果還元、(c) 他者の監視による自己規制、の三つをねらいとします。[開設した理由]

■科研費とは
■本科研費の概要
■研究目的
■研究活動の記録 (New!)
■関連する成果 (New!)
■関連日記(ジンルイ日記から)


■科研費とは

科学研究費補助金は、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする「競争的研究資金」であり、ピア・レビューによる審査を経て、独創的・先駆的な研究に対する助成を行うものです。

[科研費の若手研究とは]
若手研究者(研究開始年度の4月1日現在において39歳以下)が一人で行う研究(期間2〜4年間、応募総額によりA・Bに区分)
(A)500万円以上3,000万円以下/(B)500万円以下

独立行政法人日本学術振興会


■本科研費の概要

[研究種目]
日本学術振興会・科学研究費補助金・若手研究 (A)

[研究課題名]
「ろう者の人間開発に資する応用言語人類学的研究: アフリカ諸国の手話言語と社会の比較」

[課題番号]21682005

[領域]
人文社会系 > 人文学分野 > 文化人類学分科 [細目番号: 3301]

[期間]
2009年4月1日-2013年3月31日 (4年間)

[メンバー]
研究代表者: 亀井伸孝 [東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究員, 研究者番号: 50388724]

[キーワード]
ろう者; 人間開発; 言語人類学; アフリカ; 手話言語
(the Deaf; human development; linguistic anthropology; Africa; sign language)


■研究目的

※「2009年度若手研究 (A) 研究計画調書」より転載(2008/11/10, 亀井執筆)

[学術的背景: 研究動向及び位置づけ]

今日、国際開発の分野における動向として、経済開発から人間開発へとの大きな思想的転換が見られている(Haq, 1995=1997)。あらゆる人間の人生の選択肢を拡大し、その自由を保障していこうとする発想のなかで、女性、障害者、言語的・文化的マイノリティの存在に注目した開発の理論研究や実践が幅広く取り組まれるようになった。そして、この分野で文化人類学の方法と視点をいっそう活かすことが期待されている。しかしながら、この潮流においていまだに正面から取り組まれていないのが、本研究で焦点化する「ろう者における人間開発」のテーマである。

ろう者とは、手話を言語として話す耳が聞こえない人びとの総称である。世界各地のろう者の集まりが、地域によって異なる多様な手話言語を話していることが知られるようになり、近年ではその言語集団としての特性に注目した、言語学的、文化人類学的な研究などが進められている。

ろう者に関するテーマは、「耳が聞こえない」という特性に注目して「障害」研究の分野に含められることもあれば、「手話言語を話す」という点に着目して「言語」研究の分野に含められることもあった。しかし、この両方の特性をあわせもっているがゆえに、かえっていずれの分野においてもろう者の課題が十分に理解されて研究がなされてはこなかった。

国際開発における障害をもつ人びとの問題に焦点を当てる「障害と開発」分野が興隆しつつあるものの、原則として障害をもつ人を分離・排除しない社会統合の側面に力点が置かれ、手話という独自の言語をもつ集団をなしているろう者のテーマは軽視されてきた(森編, 2008)

一方、国際開発において多言語・多文化の問題にとりくむ潮流も生まれているが、このような多言語・多文化政策は音声言語の諸問題をあつかうにとどまり、これらの議論の中で手話言語は正当な地位を得ていない(国連開発計画, 2004)

つまり、「障害」の側からは言語の側面が軽視され、「言語」の側からは障害の側面が軽視されるというふうに、いずれの分野においても「手話言語を話す耳の聞こえない人たち=ろう者」に焦点を当てた研究が取り組まれていないのが現状である。

本研究は「ろう者における人間開発」というこれまでにない新しい課題に、文化人類学、とりわけ人間社会と言語の動態に関心を寄せる言語人類学の観点から挑戦するものである。ろう者に関する開発理論・実践は「ほかの障害者の研究」や「ほかの言語集団の研究」からの類推によって導くことはできないという原則に立ち、手話によるフィールドワークを通してこそ明らかになるろう者の特性に根ざした、独自の開発理論と実践モデルを提唱することをねらいとしている。

[学術的背景: これまでの研究成果と着想に至った経緯、研究成果の発展]

本研究の着想にいたった経緯として、申請者のアフリカにおけるろう者の言語文化と人間開発の一連の研究がある(亀井, 2006)。アフリカは概して低開発の大陸と見なされがちであるが、先進国においても達成しえなかった、ろう者たち自らによる手話を用いたろう教育事業が急速に普及した地域であったことが明らかにされている。

このように、経済開発の観点から見れば「低開発」と評価されがちな地域においても、少数言語である手話の使用実態や、それを話すろう者たちの言語的自由については、必ずしもそのイメージとは一致しない可能性が示唆される。むしろ、「低開発だからこそマイノリティが過剰な管理を受けることなく、言語的な自由を享受していた」という逆説すら、検討に値するのである。

この観点に立った場合、途上国における貧困や不自由の状況から、ろう者という言語集団の状況を類推によって理解することができないのは明らかであろう。各地のろう者に関する実証的な現地調査に基づいた、実践的な理論構築が不可欠である。さらに、現地のろう者たちの手話言語を獲得した研究者が、その集団の中で手話を用いた参与観察を行うことで、言語や文化の理解に根ざした開発モデルの提唱を行うのが望ましいであろう。

申請者は、西・中部アフリカのろう者と手話言語に関する文化人類学的研究を行ってきた。その中で、カメルーン、ナイジェリア、ガーナ、ガボン、ベナンの5カ国の調査に基づき、ろう者における手話言語の自由と教育開発政策、そして社会制度の比較を試みてきた(亀井, 2008)。本研究は、未調査の地域における手話言語集団の人類学的な調査を通して、それら一連の民族誌の中で提起した上記の逆説を含む仮説群を検証しようとするものである。

[研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか]

本研究では、ろう者と手話言語に関する調査がなされていない西・中部アフリカ諸国を対象とする。それぞれの地域のろう者コミュニティの概要を、言語、文化、歴史、政策、社会的地位の各側面について明らかにし、手話映像データを含む民族誌を作成するとともに、インターネット上に公開している世界の手話とろう者に関するデータベースを通じて、資料を公表する。

あわせて、それぞれの地域のろう者コミュニティが抱えた諸課題を明らかにし、その人間開発を検討する上で必要な政策や開発援助のあり方についての提言を行う。

さらに、これら諸国の調査データを比較検討することを通して、共通性を導くとともに、広く世界の開発途上国に関するろう者における開発のモデルを提唱することを目的とする。

[学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義]

実証的な研究が存在していない途上国各国のろう者について、実証的データが得られる。また、開発途上国のろう者コミュニティにおける実証的な調査に基づいた新しい開発モデルの提唱は、国際開発研究のみならず、開発援助の現場における実践性の高い研究としても国際的な評価を受けるであろう。さらに、従来の「障害と開発」ならびに「多言語・多文化政策研究」のいずれにも強い理論的インパクトをおよぼすことになるであろう。とくに、手話を調査言語として行うフィールドワークの事例はきわめて少なく、ろう者の文化とそれを取り巻く言語・社会環境をemicな視点でとらえ、それに根ざした開発・言語政策の提言を行うことは、言語人類学の新しい応用のスタイルとして注目されるであろう。

[文献]

Haq, Mahbub ul. 1995. Reflections on Human Development. Oxford: Oxford University Press. (ハク, マブーブル. 1997. 植村和子ほか訳『人間開発戦略: 共生への挑戦』東京: 日本評論社.)

亀井伸孝. 2006.『アフリカのろう者と手話の歴史』東京: 明石書店.

亀井伸孝. 2008.「ろう者における人間開発の基本モデル: アフリカのろう教育形成史の事例」森壮也編『障害と開発: 途上国の障害当事者と社会 (研究双書 No.567)』千葉: 日本貿易振興機構アジア経済研究所. 201-228.

国連開発計画. 2004.『人間開発報告書 2004: この多様な世界で文化の自由を』東京: 国際協力出版会.

森壮也編. 2008.『障害と開発: 途上国の障害当事者と社会 (研究双書 No.567)』千葉: 日本貿易振興機構アジア経済研究所.


■研究活動の記録

■2009年6月-
海外の手話言語に関する総合データベースサイト「アジア・アフリカ手話言語情報室」Center for Asian and African Sign Languages (AASL))の開設作業を本格化させました。


■関連する成果

海外の手話言語に関する総合データベースサイト「アジア・アフリカ手話言語情報室」(Center for Asian and African Sign Languages (AASL)) を開設しました。

アジア・アフリカの110の国・地域(アフリカ54、アジア27、中東15、大洋州14 [2010年1月2日現在の登録数])、およびこれらの国・地域に分布する84種の手話言語(アフリカ31言語、アジア34言語、中東11言語、大洋州8言語 [2010年1月2日現在の登録数])に関する情報を掲載するサイトを構築しました。どなたでも、無料で自由に閲覧していただけます。

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■関連日記(ジンルイ日記から)

■「ろう者を類推で理解しない」という原則 (2009/04/12)
■科研費・若手研究 (A) の採択にあたって (2009/04/11)


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