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発表要旨
最終更新: 2007年3月19日

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関学COEワークショップ「多文化と幸せ」
2005年1月24日

「独立ナミビアの多言語使用: 10年の動き」
米田 信子 (大阪女学院大学)

キーワード:多言語教育政策、母語教育、アパルトヘイト


■発表の要旨
ナミビアは独立に際して英語を唯一の公用語に定めたが、同時に英語以外の言語を教育の中に取り入れた多言語教育政策をとることで、アフリカ諸語についても積極的に擁護・奨励していく姿勢を見せた。本発表では、教育におけるアフリカ諸語の状況について、1995年から2004年までの動きを報告する。

ナミビアの教育言語政策は具体的には以下のようにまとめられる。

(1) 1年から3年までの教育媒介言語は原則的に母語、4年生以上は英語
(2) 語学教科として英語は小・中・高校まで必修。この他に母語の履修が理想

1993年に発表されたこの多言語教育政策が実施されるようになったばかりの1995年には、英語教育に対しても母語教育に対しても、将来が十分期待できる状況であった。アフリカ諸語を3年までの教育媒介言語として用いている小学校も多く、ナミビア大学アフリカ諸語学科の全盛期でもあり、アフリカ諸語の教師育成も活発であった。

しかしこの頃を境に、アフリカ諸語を媒介言語とする学校も語学教科として採用する学校も徐々に減少していくようになる。ナミビア大学でアフリカ諸語を専攻する学生も激減していった。これには様々な背景があるが、最も大きな要因は「人々が母語教育を望んでいない」ということである。なぜ望まないのか? それは英語を習得しないと仕事に就けないという現実と、アパルトヘイト時代に刻み込まれた母語教育に対する否定的イメージのためである。このような状況を危惧する声が次第に文部省や関係者の間であがるようになり、2000年には母語教育を「理想」ではなく「義務」とする改定案も提案された。しかし何よりもまずしなければならないのは、アフリカ諸語に対する否定的イメージを払拭することであろう。

2000年と2001年の調査段階では、問題にはされながらもアフリカ諸語のプライドを取り戻す具体的な策はとられていなかった。ところが2004年に再度ナミビアで調査を行なったところ、アフリカ諸語を取り巻く事情には変化が見られた。まず新しい教育言語政策である。2000年に出された改定案は結局実施には至らなかったが、2003年にThe Language Policy for Schools in Namibia (Discussion Document) が発表された。現行の政策からの変更点は母語教育に関することがほとんどであるが、母語教育を厳密に義務化するのではなく現実を見据えた選択になっていると思われる。このドキュメントは多くの人がその内容を理解できるように8つのアフリカ諸語を含む11言語で発行された。内容もさることながら公的文書がアフリカ諸語で発行されたことは大きな変化である。この政策はまだ施行されてはいないが、すでに中学・高等学校には語学教科としてアフリカ諸語を導入するよう政府からの「指導」があり、現在アフリカ諸語を教科として採用する学校は確実に増えてきた。またこれまでアフリカ諸語で書かれたものは教科書以外にはなかったが、ドイツ政府の援助で始まったThe Up Grading African Languages Project によって、アフリカ諸語で書かれた読み物が少しずつ出版されはじめた。これは小学校低学年の母語教育の強化を「読書」という面からサポートしようとするもので、アフリカ諸語の中でも小さい言語に焦点があてられている。

教育以外の場でもアフリカ諸語の扱いに変化が見られる。最も大きな変化は、アフリカ諸語によるテレビ放映が始まったことである。独立後英語が公用語になると同時にすべての放送を英語に切り替えた国営放送が、6つのアフリカ諸語によるニュース番組をはじめたことは画期的なことである。

もちろんこのような動きになったからといって、いきなり人々の母語教育に対する意識が変わるわけでもなく、アパルトヘイト時代に作られたイメージを変えていくのは容易なことではない。しかし、アフリカ諸語のプライドを取り戻すために、少なくとも「何か」はなされている、あるいは、なそうとしていることは注目に値するだろう。とにかくナミビアにおけるアフリカ諸語を取り巻く環境は今も動いている。

■参考文献
Harlech-Jones, Braian. 1998. "Viva English! Or Is It Time to Review Language Policy in Education?," Reform Forum, 7.
Legère, K.(ed.) 1996. African Languages in Basic Education. Windhoek: Gamsberg Macmillan.
Ministry of Education and Culture. 1993. The Language Policy for Schools:1992-1996 and Beyond.
Ministry of Education, Culture and Sports. 2003. The Language Policy for Schools in Namibia (Discussion Document) .
Pütz, Martin. (ed.) 1995b. Discrimination through Language in Africa? Perspectives on the Namibian Experience. New York: Mouton de Gruyter, Berlin.
米田信子. 2002.「多言語国家における教育と言語政策−独立ナミビアの事例から−」宮本正興・松田素二編『現代アフリカの社会変動』京都: 人文書院.
────. 印刷中.「独立ナミビアの多言語教育」『ことばと社会別冊2 脱帝国と多言語化社会のゆくえ』(21世紀COE史資料ハブ地域文化研究拠点・史資料総括斑+多言語社会研究会編)

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