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発表要旨
最終更新: 2007年5月15日

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関学COEワークショップ「多文化と幸せ」
2007年3月11日

「ポルトガル手話の現代史: 非合法コミュニケーションの歩んだ道のり」
寺尾 智史(京都大学大学院人間・環境学研究科)

#ポルトガルでは、半世紀にわたって独裁政が敷かれたが、その間、手話が禁止された。非合法となった手話が蒙った、現在に及ぶ影響について報告する。

キーワード:ポルトガル手話、言語サバルタン、ことばの再身体化

※本発表を元にしたディスカッション・ペーパーが、関学COE Advanced Social Research Online に掲載されています。全文はこちらからご覧いただけます。


■発表の要旨
ポルトガル手話は、半世紀にわたって公的な場で禁止されるという、理不尽な状態に置かれました。

いったい半世紀も、あるコミュニケーションが禁止されると、どのようなことが起こってしまうのか? そしてこの結果を克服するには、どんな困難が待ちかまえているのか? こうした問いを明らかにするために、おおむね下記の順序に従い発表します。

0.ポルトガル手話の成立
1.サラザール独裁体制とろう者教育
  ——口話法の強制:“健常者”の押し付け——
2.独裁体制下のポルトガル手話
  ——禁止されたコミュニケーション——
3.独裁体制のあとに残されたもの
  ——ポルトガル手話に残された裂傷:スティグマ、それ以上——
4.ポルトガル手話再生への葛藤 ——法と実践——
5.今後の課題
  ——ろう者の円滑で幸せなコミュニケーション再獲得に向けて——

3.で示したように、ポルトガル手話は、現在バラバラに分断され、ろう者コミュニティをつなぐどころか、傷つけ合う原因ともなっています。ポルトガルのろう者がコミュニケーションにおいて、円滑さや幸せをもう一度わが手に入れ、ポルトガル手話を、自信を持って「自分のもの」と再確認できるようにするにはどうすればよいか? 意図に反して、調査のまずさからうまくいかなかった失敗例を示しつつ、考えたいと思います。


■発表へのコメント
ポルトガルでは、他の国々における「口話法ろう教育」とは異なる形の手話への禁圧があったと本報告は伝える。独裁政権下の秘密警察が監視を強める中、聞こえる人たちも含めて公的な場でのサインのコミュニケーションが一律禁止された。そのしわ寄せで、ろう者の手話も公的に用いることが禁じられたという。

手話はろう者たちの私的な領域で生きのびたとされるが、その歴史ゆえに言語の分断が強いられ、多様性への寛容さが今もなお妨げられているのだとすれば、「多文化の幸福な共存」を検討する以前の問題があったことは明らかである。

また、耳が聞こえる大学研究者らによるポルトガル手話の標準化の試みが、ろう者たちの支持を得ていないという指摘は、他の調査においても当てはまりうる教訓として深刻に受け止めるべきだろう。研究と実践のあり方について深く考えさせられた。

報告者がポルトガル手話を体得し、ろう者の集まりに参与観察できる社会言語学者となって、これらの事例をいっそう明らかにするとともに、今日のろう者たちの価値観や歴史観を浮き彫りにすることができる研究に発展することを期待したい。

コメンテータ: 亀井 伸孝(関西学院大学COE)


■セッション司会者によるコメント
※セッション1「共存と寛容の社会調査」(寺尾氏の報告内藤氏の報告を含む)全体に対するコメントです。

「共存」に向けて、ポルトガルで、あるいは北ケニアで、人々がどのような問題に直面し、またそれを乗り越えようと試みているのかが、非常によくわかる発表でした。人々の試行錯誤の先にある「幸福」を理解するためには、その過程を丁寧に追うことが重要であること、またそのさいにフィールドワークという「調べ方」が効果的に貢献できることを改めて認識しました。

これらの研究が、それぞれの問題の解決、あるいは「幸福追求」にどのように関与、あるいは提言していけるのか、今後の展開が楽しみです。

司会: 丸山 淳子(京都大学)


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