AACoRE > Laboratories > Kamei's Lab > Index in Japanese > "COE workshop" Top page
ILCAA
COE Workshop
ニュース 概要 発表要旨 資料室

発表要旨
最終更新: 2008年2月25日

[発表要旨一覧] [発表のキーワード一覧]


関学COEワークショップ「多文化と幸せ」
2007年3月12日

「大学と連携した途上国地方公教育環境におけるデジタルデバイド解消について: モンゴルへの中古PC寄贈とオープンソースソフトウェア(OSS)の活用の実証評価研究」
吉野 太郎(関西学院大学総合政策学部)

#関学大が2006年モンゴル文部科学文化省等を通じ地方の公立学校へリユースPC100セットを寄贈したプロジェクトのプロセスの評価報告をOSSの活用効果に触れつつ行う。

キーワード:リユースPC、デジタル・ディバイド、母語インターフェース、情報通信技術(ICT)教育、オープンソース・ソフトウェア(OSS)、国連情報技術サービス(UNITeS)


■発表の要旨
2001-2004の間、JICA(国際協力機構)によるプロジェクトとして、リユースPCをモンゴル地方のパソコンがない公立校へ贈るプロジェクト-SAKURA プロジェクト-が井出博之氏によって実施され、そのフォローを行う現地NGO日本モンゴルIT協会(JMITA,現Academic Link NGO)に引き継がれる)が設立された。

筆者は2005年夏、一月かけてそのフォローアップ調査を行い、その過程で2006年夏に関学大でリプレイスのため放出される教育用PCをこの枠組みでモンゴルの地方校への寄贈プロジェクトが実現可能であることを判断した。プロジェクトを進めた結果、2006年12月現地の文部科学文化省(MOSTEC)及びモンゴル科学技術大学(MUST)へリユースPC100セットを寄贈するに至った。これは、関学大内のUNITeS(United Nations Information and Technology Services)国連ボランティア派遣プログラム、国際協力・教育センター、システム室等の協力を受ける関学全体のプロジェクトとして進められた。

本発表では、1. 1期SAKURAプロジェクトを受けた2005年夏での調査報告と評価について、2. オープンソースソフトウェア(OSS)の利点とモンゴルにおける意味について、3. 1,2を受けたUNITeS生(平塚健太氏)を中心に作成されたモンゴル語版Linuxと2005年度実施の2期SAKURAプロジェクトについて、4. 2006年末の関学大リユースPC100台寄贈の実務プロセスとその問題点とそれへの対応について、5. 2007年2月に行ったフォローアップ調査とプロジェクトの現状について、6. モンゴルのIT状況の変遷及び今後のフォローアップの方向性について、7. プロジェクト全体を見渡した評価について、報告を行う。

全体を通じ、ICT(情報通信技術)、PCを切り口とした途上国モンゴルの状況、日本等からのリユースPC寄贈支援の実例と他への波及可能性について、多言語支援の文脈でOSSが途上国で持つ潜在力について、現地NGOと日本側ボランティア(UNITeS学生)や公共機関としての大学が連携して行う支援サイクルの可能性と評価について論じたい。

■参考サイト
『KG Weekly』「関学の中古パソコン、モンゴルへ。関学生作成のOSを利用—国連ボランティアがきっかけ」
NGOアカデミックリンク
モンゴル文部科学文化省における関学PC寄贈式


■発表へのコメント
本報告は、モンゴルへの中古PC寄付を行う一連のプロセスの中で、モンゴルのICT事情、多言語支援の文脈におけるオープンソースソフトウェアの可能性、現地NGOと大学の連携およびバックアップについて述べられた。

モンゴルのICT化をを推し進めるためには、Linuxを使った外国からの安い中古PCを利用し、ひとまずハード面での充足と普及を行うこともできるし、ソフト面の多言語支援という側面からもLinuxであればモンゴル語対応が早くできることから、このオープンソースソフトウェアの活用はモンゴルのデジタルデバイド解消に強く貢献していると考えられる。

個人的な関心として、「オープンソースソフトウェアの実証評価」といったときに、何がゴールといえるのかという点があげられる。評価を行うためには、あらかじめ何らかのゴール設定がありそれに対してどの程度の達成があるのか、あるいは、現状と以前を比較することで何らかの変化がありそれがゴールに向かっているのかということを知る必要があると考えられる。中古PCを単に寄贈するにとどまらず、現地の人に以前よりも使い勝手のよいPC寄贈だとすれば、そのゴールはモンゴルでのICT環境の改善というゴールであるといえるのではないだろうか。

コメンテータ: 板野 美紀(関西学院大学COE RA) 


■セッション司会者によるコメント
※セッション3「関与と協働のエスノグラフィー」(黒崎氏の報告吉野氏の報告および白石氏の報告を含む)全体に対するコメントです。

研究者が途上国の「開発」の実践にかかわることはもはや珍しいことではない。「研究か実践か」を問うことよりも、むしろ考えなければならないのは、人類学や社会学が得意とするフィールドワークという手法によって明らかにされてきたことや、構築されてきた理論が「開発」実践にどのように寄与できるのかについてだろう。本セッションの3名の報告者はいずれもこの課題に言及し持論を展開していた。たとえば、黒崎さん(京都大学)は開発における民族誌的記述や「小さな実践」の有効性について、吉野さん(関西学院大学)は実践に携わりつつ参与観察で評価をおこなう方法や、ステークホルダーのWin-Win関係の構築について、白石さん(京都大学)は民族誌などをもとにした中範囲理論の模索や政治的リテラシーについて、などである。

それに対してコメンテーターやフロアからは数量的な評価指標の代替案や、対象との関わり方に関する質問・意見などが出され、活発に議論された。時間の都合上、議論にはならなかったが、各発表者によって述べられた「幸せなフィールド」と「バトルフィールド」、「対象者との関係のつくり方によるアウトプットの変化」、「かかわりの中での調査者/実践者自身の成長や変化」は、開発実践を考える上で重要な問題を指摘していると思われる。かかわりの時間軸の設定や現場の特異性、それにもとづいた「評価」をこれまでの開発実践はどのように考え、実施してきたのか、それに対してフィールドワークを得意とする研究者は新たに何を提示していけるのか、についてあらためて考えさせられた。個々の研究を深化さていくことはもちろん大切だが、事例を比較対照することで新たな視点が加わることを再確認できたセッションだったと思う。

司会: 西崎 伸子(福島大学)


このページのトップへ
COE Workshop

All Rights Reserved. (C) 2004-2008 Kwansei Gakuin
このウェブサイトの著作権は学校法人関西学院に属します。