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発表要旨
最終更新: 2007年6月22日

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関学COEワークショップ「多文化と幸せ」
2007年6月17日

「調査される『世界』を開く: 世界資本主義システム・再帰的近代化・連累」
飯嶋 秀治(九州大学)

#日本の都市から見る「世界」と、海外の辺境から見る「日本」は大きく異なる。調査「一歩前」の前提であり、「一歩前」の展望でもある彼我の関係について考える。

キーワード:世界資本主義システム、再帰的近代化、専門家システム、連累


■発表の要旨
日本の都市でマスメディアを通じて見る「世界」と、海外の辺境で直接体験する「世界」とは、大きく異なることがある。日本では大学に進学する人口は現在約50%だが、世界人口のスケールでは約1.3%にとどまる。国民国家の枠内で考えれば「普通」だが、世界社会の枠内で考えれば「特権」にもなり得る。同様に、現在獲得した各自のポジションも、国民国家の枠内で考えれば「努力の結果」だが、世界社会の枠内で考えれば「偶然の産物」になり得る。ウェーバーは同時代社会の在り方を「プロテスタンティズムの倫理」へと帰因させたが、ウォーラーステインは「史的システムとしての資本主義」に帰因させ得た。

モダン論とポストモダン論を社会学的に止揚した再帰的近代化論は、世界社会内におけるIMFから、国民国家内のマスメディアまでをその説明範囲内に収めるものであるが、その再帰的近代化が、ウェーバー的な枠組みから見られるのか、ウォーラーステイン的な枠組みから見られるのかで、ホームとフィールドの関係の相貌は大きく異なる。日本の都市で、「普通」を自認する研究者による、マスメディアを通じて見る「世界」への調査は「ボランタリー」となるかもしれないが、海外の辺境で、「特権」を自認する研究者による直接体験する「世界」の調査は「連累」への応答となり得る。

私は、この発表で、IMFへの日本の拠出金や、日本の企業との関連でオーストラリア先住民の世界で生じている社会問題などの事例を挙げ、後者の連累の「世界」を開くよう試みることで、「人類の幸福に資する社会調査」の一歩前─それは調査の「一歩手前」であると同時に、調査の後の「一歩前前進」でもある─の閉ざされた「世界」の在り方を問うた。

文献
ウォーラーステイン, イマニュエル, 1997(1995)『史的システムとしての資本主義』川北稔訳, 岩波書店.
ベック、ウルリッヒら, 1997(1994)『再帰的近代化─近現代における政治、伝統、美的原理』松尾精文ほか訳, 而立書房.
モリス-スズキ、テッサ, 2002『批判的想像力のために─グローバル化時代の日本』平凡社.


■発表に対するコメント
・再帰的近代化と世界資本主義システムがどうつながるのか。また、なぜ専門家システムの事例として、IMFとマスメディアなのか、むしろ、それらの専門家システムと「調査」の話が出てくるのかと思ったが。最後に、「連累」は調査者へのモラルなのか、それとも全員が従うべきようなものとして考えているのか。
・個人的には「理論付加性」のようなことを、シンプルに伝えるにはどうしたらいいのか、に興味がある。


■発表者の感想
私の専門は、共生社会システム論ですが、人類学会でも発表します。そして、「人類学」を名乗るのであれば、単なる「地域研究」にとどまってはならない、と考えてきました。その意味で、今回の発表では、調査者が、世界の中核都市からスタートでき、世界の周辺の辺境でどうあがいても、自分の来たスタート地点には自力で来られそうもない人達の調査をするという関係を問い直し、「調査」なるものの前提と展望をチューニングしてみたいと思った訳です。

ホームとフィールドは、人間的に直接的な関係を持っていないというだけで、自然的な諸条件を通じても、商品経済を通じても、さらに言えば、商品経済が自然条件を変化させ、自然条件が商品経済を変化させる形でさえ、既に「常時接続」したような状態にあるように思われます。そうした中で、幸福に資する調査条件として、フィールドでの調査のノウハウを考えるのではなく、フィールドとホームの関係を捉えなおす概念としての「連累」を、この世界社会の文脈に投げ込んでみた訳です。

コメントはそれぞれ啓発的で、飛躍の多い私の論旨を関係づけてくれたことに感謝致します。(飯嶋秀治)


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