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発表要旨
最終更新: 2008年5月22日

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関学COEワークショップ「多文化と幸せ」
2008年5月21日

「人類の幸福からアクションへ: ワークショップ4年間の軌跡と展望」
亀井 伸孝(東京外国語大学; 関西学院大学COE研究協力者)

#2004年からの研究会の経緯をまとめ、「人類の幸福」というテーマがなぜ、いかにフィールドワーカーの個人的アクションの本に結実したかを概観する。

キーワード:多文化と幸せ、人類の幸福、個人的アクション、フィールドワーカー、67億通りの調査者/実践者


■発表の要旨
アクション別フィールドワーク入門 関学COEワークショップ「多文化と幸せ」は、COEの全体テーマ「『人類の幸福に資する社会調査』の研究」のもと、若手フィールドワーカーによる共同研究の場として発足し、2004年4月からの準備期間を含めて4年にわたり断続的に開催された。

結果として、15の異なる所属から集まったのべ31人による30件の報告を得て、109件の成果(著書、論文、学会発表など、2008年3月調べ)を生んだ。また、各発表者が持ち寄った素材に基づいて、フィールドワーカーの個人的技芸の多様性と有用性をテーマとした『アクション別フィールドワーク入門』(世界思想社, 2008年)が刊行された。

「人類の幸福」を看板に掲げたはずの研究会シリーズが、フィールドワーカー個人のアクションの本として結実した。数のみ見れば、人類67億人のテーマがたった1人のテーマになってしまったという驚くべき縮退であると見る向きもあるだろうか。しかし、その観測は当たっていない。

「多文化と幸せ」(文化的多様性の存在を念頭に、おのおのの立場における幸福追求を実現させること、および調査を通してそのプロセスに関わること)を切り口とした研究発表を重ねるうちに、私たちはあることに気がついた。フィールドワーカーたちが個人として実に多芸な人たちであること。現場でとっさにさまざまなアクションをくり広げ、時と場を選ばず関与と協働をくり返してきたこと。転んでも必ず何かをつかんでくる人たちであること。それが、幸福や不幸の具体的理解に大きな寄与をしていること。これらはまさしく、フィールドワークという現地に長期で身を置く調査法の本質的な特長であり、フィールドワーカーらの誇るべき特技であることに思いいたったのである。

この傾向は、各回の発表のタイトルを見ていても浮かび上がってくることであろう。また、全発表ののべ120件のキーワードのうち42件(全体の3分の1強)が、アクションやそれに類する行為によって占められていた(25件の発表とワークショップ全体趣旨の集計、2008年3月15日調べ)。「アクションする/されるところにおいて関係が構築される」「幸福/不幸にまつわる理解と関与のチャンネルは、絶えざる相互行為のプロセスの中において開かれる」。「多文化と幸せ」に集まった発表者たちは、これらのことをそうと自覚しないまま(?)、いつしか関連するアクションの素材を持ち寄って積み上げていたことになる。

参与観察を旨とするフィールドワーカーは、幸福や不幸にも参与して理解する。そのことを率直に示そうとする成果があってよいであろう。実践を通して調査を行うことは、参与なしに幸福と不幸について調査を行う各種の社会調査法の不備を補って余りある、それ自体魅力的な営みにほかならないことを、もっとポジティブに打ち出してよいに違いない。このような概括に根ざして、人類の幸福をまず調査者個人のアクションから考え始めるという編集方針を採ることとした。「幸福の青い鳥はすぐそばにいた」とまとめるのではない。しかし「調査者が幸福追求のあり方を学びそれに関与するために、すぐそばで始められることがある」というのが、今回のシリーズにおける私たちの発見ではなかっただろうか。

このワークショップは、当初から普遍性への関心を秘めていた。それぞれの事例は「○○国の○○地域の○○民族の○○居住集団においてこういう関与/実践/支援をしました」という個別報告にとどまりうるものではないであろう。それらをノウハウとして蓄積し、共有し、そして普遍的に応用可能な調査/実践ツールとして育むこと、調査者たちが実装してフィールドにふみだしていける多様なツールを開発し続けることが、これからの私たちに課せられた使命ではないかと考えている。

本ワークショップの果実たる調査者の個人的アクションの数かずとは、67億人との関与に開かれたチャンネルにほかならない。そして、アクションとリアクションが常に相補的にあり続けてきたことを考えるならば、文字通り「67億通りの調査者/実践者の姿がある」という事実をも、あわせて私たちに教えてくれているはずである。

文献
武田丈・亀井伸孝編. 2008.『アクション別フィールドワーク入門』京都: 世界思想社.
メーテルリンク, モーリス. 1960. 堀口大学訳『青い鳥』東京: 新潮社.

サイト
関学COEワークショップ「多文化と幸せ」


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