AACoRE > Laboratories > Kamei's Lab > Index in Japanese > "COE workshop" Top page
ILCAA
COE Workshop
ニュース 概要 発表要旨 資料室

発表要旨
最終更新: 2007年3月19日

[発表要旨一覧] [発表のキーワード一覧]


関学COEワークショップ「多文化と幸せ」
2005年1月8日

「森の民ピグミーの『幸せ』に向けて:自然保護計画に人類学者がコミットできる可能性」
服部 志帆 (京都大学)

キーワード:自然保護、共同管理、人類学者、狩猟採集民、カメルーン


■発表の要旨
カメルーン共和国東部州に広がる熱帯林は、ゴリラやチンパンジーなどの絶滅危惧種をはじめとする豊富な動物層や8000種を超えると言われる多様な植物を育んできた。しかし、森が育んできたのはこのような動植物だけではない。ピグミー系狩猟採集民であるバカやバンツー系の農耕民たちも、その生活や文化などをこの森に強く依存して暮らしてきた。1990年代後半、東部州では伐採や密猟の影響による野生動物の減少を食い止めるために、自然保護計画が始まった。

本発表では、まず自然保護計画がバカの生活に与える影響について述べ、さらに人類学者である自分が住民の生活を考慮した自然保護計画作成へむけて果たす役割と可能性について考える。この作業は、バカにとって「幸せ」とは何かという根本的な問いを無視して行うことが出来ない。しかし、バカ本人になることは不可能であるので、彼らの表情や語りなど約2年間にわたる雑多な観察から彼らにとっての「幸せ」について手がかりを探った。

バカは森において狩猟、採集、漁労などの生業活動を行い、食料や物質文化の材料、現金収入を獲得している。このように、バカは森の動植物に強く依存する一方で、農耕民や商人から入手する農作物や工業製品を利用することによって生活を成り立たせている。このような彼らの生活の現状を踏まえ、さらにバカの土地利用の形態や、バカの生活において狩猟動物が果たす役割、農耕民との不平等な関係を考慮した上で保護計画を検討する必要がある。2003年12月、発表者はこのような保護計画の問題点を保護団体であるWWF(世界自然保護基金)やドイツの援助団体であるGTZ、そしてMINEF(環境と森林省)との共催セミナーにおいて発表した。バカの生活をほとんど知らない役人や職員にとって、バカの生活を知ってもらうことができたのは有意義であったし、現金収入の少なさに同情の声が上がった。しかし、保護計画の具体的な改善という話になると、政府が決めたことだから仕方が無いという堂々めぐりの議論になった。2005年1月に今度は首都で共催セミナーを行うが、どのような展開が期待できるものだろうか。また、現実の状況を変えていく方法としてどのようなアプローチが有効なのだろうか、尽きない疑問が残る。

最後に、バカの「幸せ」について、彼らが本当に幸せそうに見えた瞬間は、蜂蜜がたくさん採れた時やイルビンギア・ナッツの当たり年など、森の恵みと深く関係していた。現在、彼らは何よりも深く森に依存しており、彼らの幸せは森なくしてありえないように見えた。

■参考文献
服部志帆. 2004.「自然保護計画と狩猟採集民の生活‐カメルーン東部州熱帯林におけるバカ・ピグミーの例から」『エコソフィア』No.13, pp.113-127.
市川光雄. 1994.「森の民の生きる道」掛合誠編『地球に生きる2環境の社会化』雄山閣出版, 93-113頁.
Noss, A. J. 2001. Conservation, development and "the forest people": the Aka of the Central African Republic. In W. Weber, L. J. T. White, A. Vedder & L. Naughton-Treves (eds.), African Rain Forest Ecology and Conservation: An Interdisciplinary Perspective. New Haven: Yale University Press, pp.313-333.
Some, L. 2001. Protected Areas Development and Tran-border Conservation Initiatives for better Partnerships in Nature Resource Management "The Jengi Experience" South East Cameroon, WWF Cameroon.
■参考サイト
WWFカメルーンホームページ
2003年12月開催共催セミナーの報告

このページのトップへ
COE Workshop

All Rights Reserved. (C) 2004-2008 Kwansei Gakuin
このウェブサイトの著作権は学校法人関西学院に属します。