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亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

「「人種」と「人種主義」をめぐる博物館展示の動向:
フランスの人類博物館とアメリカ人類学会の展示会の事例」

亀井伸孝, 2018
『国立民族学博物館研究報告』42巻4号: 449-474
2018年6月14日刊行

日本語 / English / Français
最終更新: 2018年8月12日

国立民族学博物館研究報告42(4)

2017年、フランスとアメリカで、くしくも同じ時期に、人種と人種主義をめぐる類似の博物館展示が行われていました。両者を現地で視察した経験に基づいて、展示の内容を具体的に紹介し、両者の共通点や相違点、展示会の意義や諸課題についてまとめるとともに、日本における今後のための提言を述べた論文をまとめ、国立民族学博物館の雑誌に掲載していただく機会を得ました(査読付き)。

本ウェブページは、同論文の概要を紹介するページとして作られました。

国立民族学博物館学術情報リポジトリにおいて、全文が公開されています。
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『国立民族学博物館研究報告』42巻4号刊行、「「人種」と「人種主義」をめぐる博物館展示の動向」掲載 (2018/06/14)

■書誌情報(日/英)
■キーワード(日/英)
■目次
■ちょっと立ち読み(序論と方法)
■本論に掲載した写真一覧
■謝辞
■本論で引用、参照した文献/ウェブサイト
■正誤表
■本論に関連する成果
■本論に関わりの深いリンク集


■書誌情報(日/英)

2018年6月14日 [日本語]
亀井伸孝. 2018. 「「人種」と「人種主義」をめぐる博物館展示の動向: フランスの人類博物館とアメリカ人類学会の展示会の事例」『国立民族学博物館研究報告』42巻4号: 449-474.
[全文ダウンロードページ](無料)

June 14, 2018 [in Japanese]
Kamei, Nobutaka. 2018. Trends of museum exhibitions on "race" and "racism": Cases of exhibitions by Musée de l'Homme in France and the American Anthropological Association. In: Bulletin of the National Museum of Ethnology 42(4): 449-474.
[The full text of the article (PDF, in Japanese)]


■キーワード(日/英)

人種、人種主義、博物館展示、人類博物館、アメリカ人類学会 (AAA)
race; racism; museum exhibition; Musée de l'Homme; American Anthropological Association (AAA)


■目次

1 はじめに:本報告の目的と背景
1.1 近年における人種主義の再燃 
1.2 人類学および博物館の役割
1.3 フランスとアメリカにおける展示会の試み

2 【事例1】フランス、人類博物館による展示会

2.1 展示会の概要紹介
(1) 分類をめぐる政治性
(2) 人種主義の構築過程
(3) 人種主義がもたらした悲劇
(4) 世界の他の地域の事例
(5) 自然科学の成果
(6) 素朴な疑問と回答
(7) フランス社会における現状
2.2 展示会のおもな特徴

3 【事例2】アメリカ人類学会による展示会

3.1 展示会の概要紹介
(1) 総論的なエントランス
(2) 歴史的経緯とアメリカ社会の現状
(3) 新しい成果と未来への提言
3.2 展示会のおもな特徴

4 フランスとアメリカの展示会を比較して

4.1 両展示会の共通点
4.2 両展示会の相違点

5 おわりに:同時代における意義と課題、今後への示唆

5.1 同時代におけるふたつの展示会の意義
5.2 残された諸課題
5.3 日本における今後への示唆

謝辞

文献/ウェブサイト


■ちょっと立ち読み(序論と方法)

1 はじめに:本報告の目的と背景
1.1 近年における人種主義の再燃 

2017年、フランスとアメリカの博物館で、くしくも同じ時期に、人種(英仏ともに race)および人種主義(英 racism/仏 racisme)をテーマとした、ふたつの展示会が開催されていた。本報告は、これらの展示内容を具体的に紹介し、今後の日本における取り組みの参考事例として提示することを目的とする。

本報告を執筆する背景として、日本および世界における人種主義の再燃という現象を指摘しておきたい。今日、他者を侮蔑する言説がインターネット上で吹き荒れ、極端な思想に基づいた暴力的なデモが在日外国人の生活圏を脅かしている。公共空間における言説でもその徴候が目立ち、たとえば一部の政治家は人種主義的、排外主義的発言を繰り返し、近隣諸国や諸民族を侮蔑するタイトルの書籍が店頭に並び、マスメディアの一部もそれらを諌めるどころか、むしろ迎合する風潮すら散見される。

世界に目を転じると、ヨーロッパでは移民・難民をめぐる議論のなかで排外主義がしばしば吹き荒れ、イギリスのEU離脱などの動きもあいまって、民族主義、ナショナリズム、人種主義が台頭、一部では政権与党にも参画するほどの勢いを見せている。アメリカでも、トランプ政権成立の時代状況のもと、排外主義、人種主義を公然と叫ぶ動きが顕著になりつつある。テロや犯罪を根拠にして特定地域の出身者や宗教に属する人びとを侮蔑し、その侮蔑がまた新しい憎悪を招くというふうに、悪循環すら招いている現状がある。スポーツや芸能の分野で、人種主義に根差した揶揄などの行為が発生し、物議をかもすという事件も、後を絶たない。

特有の政治経済的背景のもと、排外主義的な思想、とりわけ人種主義が再燃することを防ぐことは、今日の私たちにとって重要かつ切迫した世界的課題のひとつである。

1.2 人類学および博物館の役割

こうした状況にあって、人類学、博物館および隣接領域の研究者においては、どのような社会への関与が可能であろうか。日本において、人種をめぐる知見の着実な蓄積はかねてより行われているが(竹沢編 2005; 斉藤・竹沢編 2016; 坂野・竹沢編 2016; 川島・竹沢編 2016)、専門性に根差しつつ、社会に対する明快なメッセージを届けていくこともまた重要であろうと考えられる。そのような社会的発信の取り組み事例として、たとえば最近では、新しい研究成果である『人種神話を解体する』シリーズの刊行に関連した連続セミナーが開催されている(京都大学人文科学研究所 2017a: 2017b)。さらに、啓発的書籍や高等学校における世界史教育などを通じて、人種概念の捉え直しを提起する試みなどがある(ヘンリ 2002; 高橋 2005)。

これらに加え、研究成果の社会的発信のひとつの手段として、博物館展示に注目したい。日本では、国立民族学博物館「多みんぞくニホン: 在日外国人のくらし」(大阪府吹田市、国立民族学博物館、2004年3月25日~6月15日)を始め、これまでも多文化共生をめぐる企画などの取り組みが行われてきている(国立民族学博物館 2004)。一方で、人種そのものを明確にテーマに掲げた展示企画は、これまでは少なかったものと見られる。

「人種」「レイシズム」を明確にテーマに掲げた近年の取り組みとして、「SAY NO TO RACISM: 人種差別にレッドカード」(2014年7月22日~9月20日、大阪府大阪市浪速区、リバティ大阪)や、「レイシズムにさよならを」(2016年12月23日~2017年1月29日、神奈川県川崎市中原区、川崎市平和館)などが挙げられる(リバティおおさか 2014; センゴネット 2017)。こうした取り組みに注目しつつも、より大きな視野で「ヒト」という生物種の全体像を捉え直し、人類学の新しい知見をもって社会啓発に取り組むような大がかりな展示企画があってよいものと期待される。

1.3 フランスとアメリカにおける展示会の試み

排外主義が強まりつつあるという意味で、ある側面では日本と似通った状況にあるとも言えるフランスとアメリカにおいて、人種と人種主義を明快に主題に掲げた博物館展示が行われていることは、注目に値する。これらの展示会において、人類学者たちはどのような素材、知見、視点、方法を用い、同時代に向けてどのようなメッセージを発信しているのであろうか。それらの試みから、私たちが学びうることは何であろうか。

本報告では、フランスとアメリカの両方の展示会をそれぞれの現地で直接見聞した筆者の経験に基づき、展示内容とメッセージの概要を記録するとともに、それらの比較から見えてくるこの分野の動向の特徴を指摘し、今後の日本における取り組みのためのいくつかの示唆を述べる。

筆者は、フランスとアメリカで実際に開催されている博物館の展示会を視察し、記録を行った。また、関連する書籍やウェブ上の文献を収集した。両展示会の概要は、表1、表2の通りである。

表1 【事例1】フランス、人類博物館による展示会の概要

photo20171019_museedelhomme.JPG 展示会名称:「私たちと他者: 偏見から人種主義まで」("Nous et les autres : des préjugés au racisme")
開催地:フランス・パリ(17 place du Trocadéro, 16e arrondissement, Paris, France)
開催施設:人類博物館(Musée de l'Homme
開催期間:2017年3月31日〜2018年1月8日
展示会における使用言語:フランス語、英語
展示会の特製パンフレット/書籍:あり(Heyer et Reynaud-Paligot eds. 2017)
現地調査日:2017年10月21日、同12月27日

表2 【事例2】アメリカ人類学会による展示会の概要

photo20171119_chicagohistory.JPG 展示会名称:「人種: 私たちはそんなに違うのだろうか?」("Race: Are We So Different?")
開催地:アメリカ・シカゴ(1601 North Clark Street, Chicago, Illinois, USA)
開催施設:シカゴ歴史博物館(Chicago History Museum
開催期間:2017年11月11日〜2018年7月15日
展示会における使用言語:英語
展示会の特製パンフレット/書籍:あり(Goodman, Moses and Jones 2012)
現地調査日:2017年11月19日

(>> 続きは本論で)


■本論に掲載した写真一覧

写真1 フランス、人類博物館および展示会エントランス
(上:2017年10月19日、下:同10月21日、人類博物館にて筆者撮影)

写真2 人種主義の構築過程をめぐる展示
上:博物学、人類学の系譜に属する著名研究者たちの著作
下:植民地博覧会のポスター
(2017年12月27日、人類博物館にて筆者撮影)

写真3 自然科学の成果を用いた映像コーナー
上:遺伝学に基づいた啓発的なアニメ映像
下:人間の特徴と遺伝の関係を学べるインタラクティブ映像
(2017年12月27日、人類博物館にて筆者撮影)

写真4 人種をめぐる素朴な疑問とそれへの回答
上:壁面に掲示された疑問の数かず
下:館内で無料配布している一問一答のパンフレット
(2017年12月27日、人類博物館にて筆者撮影)

写真5 アメリカ、シカゴ歴史博物館および展示会エントランス
(2017年11月19日、シカゴ歴史博物館にて筆者撮影)

写真6 総論的なエントランスにおける展示
上:「人種は、最近の人間による発明である」という文言から始まる
下:床に描かれた巨大な世界地図で、出アフリカと人間の移動を表現
(2017年11月19日、シカゴ歴史博物館にて筆者撮影)

写真7 ホモ・サピエンスの出アフリカを学べるインタラクティブ映像
(2017年11月19日、シカゴ歴史博物館にて筆者撮影)

写真8 人種間の所得格差を、札束の高さで表現する。
中央左の最も高い山が白人、手前の最も低い山が黒人。
(2017年11月19日、シカゴ歴史博物館にて筆者撮影)

写真9 アメリカの国勢調査と人種をめぐるコーナー
上:同一人物が、時代によって異なる分類をされることを映像で表現。
下:将来の国勢調査の質問項目について、参観者がタッチパネルで投票する。
(2017年11月19日、シカゴ歴史博物館にて筆者撮影)


■謝辞

本報告のもととなる現地調査は、愛知県立大学長期学外研究制度の期間を利用して行われた。

JSPS科研費JP16H01968「応答の人類学」(代表: 清水展)ならびに日本文化人類学会課題研究懇談会「応答の人類学」(代表: 亀井伸孝)における共同研究、日本学術会議シンポジウム「高等学校・新科目「公共」にむけて: 文化人類学からの提案」(2016年12月18日、東京、主催: 日本学術会議地域研究委員会人類学分科会(委員長: 窪田幸子)、共催: 日本文化人類学会、JSPS科研費JP16H06320「人種化のプロセスとメカニズムに関する複合的研究」(代表: 竹沢泰子))における議論を背景として執筆された。

フランス、人類博物館のAlain Froment博士には、展示会視察のための便宜を図っていただいた。

国立民族学博物館の査読ご担当の方には、有益な助言をいただいた。記してお礼申し上げたい。


■本論で引用、参照した文献/ウェブサイト

川島浩平・竹沢泰子編. 2016. 『人種神話を解体する 3: 「血」の政治学を越えて』東京: 東京大学出版会.
京都大学人文科学研究所. 2017a. 「「人種神話を解体する: 「血」の政治学を越えて」出版記念連続セミナー」 (2018年3月11日閲覧)
京都大学人文科学研究所. 2017b. 「「人種神話を解体する: 科学と社会の知」出版記念連続セミナー」 (2018年3月11日閲覧)
国立民族学博物館. 2004. 「特別展「多みんぞくニホン 在日外国人のくらし」」 (2017年12月28日閲覧)
斉藤綾子・竹沢泰子編. 2016. 『人種神話を解体する 1: 可視性と不可視性のはざまで』東京: 東京大学出版会.
坂野徹・竹沢泰子編. 2016. 『人種神話を解体する 2: 科学と社会の知』東京: 東京大学出版会.
瀬口典子. 2008. 「アメリカ自然人類学会の歴史と動向」Anthropological Science (Japanese Series). 116: 57-66. >> [全文 (PDF)]
センゴネット. 2017. 「なぜ差別されなければいけないのか!? : 川崎でレイシズムを考える」 (2018年3月11日閲覧)
高橋健司. 2005. 「世界史教育における「人種」概念の再考: 構築主義の視点から」『社会科教育研究』(日本社会科教育学会) 94: 14-25. >> [全文 (PDF)]
竹沢泰子編. 2005. 『人種概念の普遍性を問う』京都: 人文書院.
ヘンリ, スチュアート. 2002. 『民族幻想論: あいまいな民族 つくられた人種』大阪: 解放出版社.
リバティおおさか. 2014. 「企画展「SAY NO TO RACISM: 人種差別にレッドカード」」 (2017年12月28日閲覧)
American Anthropological Association. n.d. Race: Are We So Different? (accessed on December 28, 2017)
American Anthropological Association. 2016. Race: Are We So Different? (accessed on December 28, 2017)
Chicago History Museum. 2017. Race: Are We So Different? (accessed on December 28, 2017)
Goodman, Alan H., Yolanda T. Moses and Joseph L. Jones. 2012. Race: Are We So Different? (1st Edition). Chichester, West Sussex, UK; Malden, MA: Wiley-Blackwell; Arlington, VA: American Anthropological Association.
Heyer, Evelyne et Carole Reynaud-Paligot eds. 2017. Nous et les autres : des préjugés au racisme. Paris : La Découverte.
Musée de l'Homme. 2017. Nous et les autres : des préjugés au racisme (accédé le 28 décembre 2017)
Science Museum of Minnesota n.d. Race: Are We So Different? (accessed on December 28, 2017)
UNESCO. 2017. Exposition « Nous et les autres : Des préjugés au racisme » (accédé le 28 décembre 2017)


■正誤表

p.474 掲載の文献一覧のうち、以下の箇所に誤りがありましたので、訂正します。

【誤】Heyer, Evelyne et Carole Reynaud-Paligot eds. 2017. Nous et les autres : des préjugés au racisme. Pari: La Découverte.

【正】Heyer, Evelyne et Carole Reynaud-Paligot eds. 2017. Nous et les autres : des préjugés au racisme. Paris : La Découverte.

[正誤表をダウンロード] (PDF)


■本論に関連する成果

■2018年7月30日-8月6日 [日本語] 新着!
亀井伸孝. 2018. 「「人種」と「人種主義」をめぐる博物館展示の動向: フランスの人類博物館とアメリカ人類学会の展示会の事例」(ポスター発表) 平成30年度愛知県立大学教員研究発表会パネル発表 (2018年7月30日-8月6日), 愛知県長久手市, 愛知県立大学).
[ポスターを見る] (PDF)

■2018年7月11日 [日本語] 新着!
亀井伸孝. 2018. 「「人種」と「人種主義」をめぐる博物館展示の動向: フランスの人類博物館とアメリカ人類学会の展示会の事例」(ポスター発表) 第6回国際関係学科ポスター研究発表会 (2018年7月11日, 愛知県長久手市, 愛知県立大学).
[ポスターを見る] (PDF)


■本論に関わりの深いリンク集

みんぱくリポジトリ(国立民族学博物館学術情報リポジトリ)における本論掲載ページ (無料で全文ダウンロードできます)
国立民族学博物館
国立民族学博物館研究報告バックナンバー
Musée de l'Homme
American Anthropological Association
Science Museum of Minnesota
Chicago History Museum
日本文化人類学会課題研究懇談会/科学研究費補助金基盤研究 (A) 「応答の人類学」
日本学術会議地域研究委員会
科学研究費補助金基盤研究 (S) 「人種化のプロセスとメカニズムに関する複合的研究」



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