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ILCAA
亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

日本貿易振興機構アジア経済研究所

日本語 / English / Français
最終更新: 2017年8月10日

2005年4月より2009年3月まで、日本貿易振興機構アジア経済研究所の研究会委員を務めました。アフリカ諸国における現地調査に基づき、開発途上国におけるろう者と人間開発の諸問題、とりわけ教育・言語政策の問題を中心に研究を行いました(2期の任期終了)。

2013年4月から2015年3月まで、研究会「アフリカの障害者: 障害と開発の視点から」の研究会委員を務めました(終了)。

日本貿易振興機構アジア経済研究所 (IDE-JETRO) のウェブサイト:
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プロジェクト

「アフリカの障害者: 障害と開発の視点から」(2013-2015)
「障害者の貧困削減──開発途上国の障害者の生計」(2007-2009)
「開発問題と福祉問題の相互接近──障害を中心に」(2005-2007)
書籍
『アフリカの「障害と開発」: SDGsに向けて』(2016年, 研究双書 No. 622)
『途上国障害者の貧困削減: かれらはどう生計を営んでいるのか』(2010年, 岩波書店)
『障害と開発: 途上国の障害当事者と社会』(2008年, 研究双書 No. 567)
報告書
雑誌 新着!
学会発表
研究会発表・講演など
現地調査
2014年、セネガル調査
2013年、セネガル調査
2008年、コートジボワール調査


プロジェクト

■2013年4月1日-2015年3月31日
「アフリカの障害者: 障害と開発の視点から」
(主査: 森壮也 [アジア経済研究所])

[2013年度 No. C-33] [2014年度 No. C-22]
[調査研究報告書 (中間報告, 2014年3月刊行, 日本語)]
[調査研究報告書内の亀井伸孝による分担執筆論文 (PDF) (中間報告, 2014年3月刊行, 日本語)]
[書籍 (最終成果, 2016年2月刊行, 日本語)]

■2007年4月1日-2009年3月31日
「障害者の貧困削減──開発途上国の障害者の生計」
(主査: 森壮也 [アジア経済研究所])

[2007年度 No. 1-13] [2008年度 No. 1-13]
[調査研究報告書 (中間報告, 2008年3月刊行, 日本語)]
[調査研究報告書内の亀井伸孝による分担執筆論文 (PDF) (中間報告, 2008年3月刊行, 日本語)]
[書籍 (最終成果, 2010年11月刊行, 日本語)]

■2005年4月1日-2007年3月31日
「開発問題と福祉問題の相互接近──障害を中心に」
(主査: 森壮也 [アジア経済研究所])

[2005年度 No. 4-26] [2006年度 No. 4-29]
[調査研究報告書 (中間報告, 2006年3月刊行, 日本語)]
[調査研究報告書内の亀井伸孝による分担執筆論文 (PDF) (中間報告, 2006年3月刊行, 日本語)]
[書籍 (最終成果, 2008年2月刊行, 日本語)]


書籍

アフリカの「障害と開発」

■2016年2月18日 [日本語]
森壮也編. 2016. 『アフリカの「障害と開発」: SDGsに向けて』(研究双書 No. 622) 千葉: 日本貿易振興機構アジア経済研究所.

【本書の目次】
第1章 アフリカの「障害と開発」 (森壮也)
第2章 障害に関するアフリカの地域的取り組み (小林昌之)
第3章 開発主義体制下のエチオピアにおける保健政策とHIV陽性者・障害者のニーズ (西真如)
第4章 ケニアにおける障害者の法的権利と当事者運動 (宮本律子)
第5章 国境をまたぐ障害者: コンゴ川の障害者ビジネスと国家 (戸田美佳子)
第6章 セネガルにおける障害者の政策と生活: 「アフリカ障害者の10年」地域事務局と教育、運動、労働 (亀井伸孝)
第7章 南アフリカの障害者政策と障害者運動 (牧野久美子)
第8章 終章: アフリカの「障害と開発」から学べるもの (森壮也)

各章の詳細については、アジア経済研究所のウェブサイトをご覧ください。

【入手方法】

アジア経済研究所のウェブサイト、または一般書店でご注文ください。[Amazon で見る]

【亀井分担執筆章(第6章)の概要】
亀井伸孝. 2016. 「セネガルにおける障害者の政策と生活: 「アフリカ障害者の10年」地域事務局と教育、運動、労働」森壮也編『アフリカの「障害と開発」: SDGsに向けて』(研究双書 No. 622) 千葉: 日本貿易振興機構アジア経済研究所. 195-235.

【第6章の冒頭】

はじめに: 調査の目的と方法

2000年、アフリカ統一機構(Organisation of African Unity: OAU)(現アフリカ連合(African Union: AU))により「アフリカ障害者の10年」(2000-2009年)の取り組みが始められた。さらに、第1次「10年」の終了後も、アフリカ連合によって「第2次アフリカ障害者の10年」(2010-2019年)が設定された。これらの取り組みをサポートする形で、国際協力機構(JICA)はアフリカ各国から障害当事者のリーダーを日本およびタイなどのアジア・太平洋地域に招き、障害当事者団体であるDPI日本会議が受け入れ先となって、障害者の地位向上をめざした研修を行ってきている(国際協力機構 2011)。

セネガルには、アフリカ障害者の10年の西・中部・北アフリカ地域事務局が設置されている。また、NGO西アフリカ障害者団体連盟の本部も同国の首都ダカールにおかれている。同国からJICAの障害者リーダー研修に参加した人も複数いる。

このように、国際的な動向に深いかかわりをもつ国でありながら、現地の障害者についての実態調査は乏しく、障害者に関する網羅的な文献も存在していない。

本章は、以下の三点を解明することを目的としている。第1に、セネガルにおける障害者の人口と政策の概要を、おもに統計資料および政府関係者へのインタビューより明らかにする。第2に、アフリカ障害者の10年地域事務局を含む国境を越えた障害当事者運動の状況について、当該の団体運営や諸活動を担っている障害をもつ当事者へのインタビューに基づいて示す。第3に、障害をもつ人びとにかかわる教育、運動、労働の実態について、関連機関・団体および障害をもつ市民個人に対するインタビューと観察に基づいて概観する。これらを通じて、同国の障害者と彼ら彼女らをとりまく環境の現状を明らかにし、今後の開発に資する基礎資料とすることをねらいとする。

【第6章の構成】

はじめに: 調査の目的と方法

第1節 セネガルの障害者人口、政策
 1. 統計による障害者人口
 2. 憲法上の規定と政策
 3. 大統領顧問を務める肢体障害女性

第2節 セネガルと国境を超えた障害当事者運動
 1. アフリカ障害者の10年事務局の概要
 2. アフリカ障害者の10年事務局: 西アフリカにおける取り組み
 3. 西アフリカ障害者団体連盟

第3節 セネガルの特別支援教育と障害当事者運動
 1. セネガルにおける特別支援教育
 2. インクルーシブ公立小学校の取り組み
 3. セネガルの障害者団体

第4節 障害者の労働の状況: 聞き取り調査から
 1. 聞き取り調査の概要
 2. 聞き取り調査の結果
  (1) 職種のヴァリエーション
  (2) 月収の水準
  (3) 職業訓練の機会と後進の指導
  (4) 障害当事者が経営する施設の事例
  (5) 起業資金と設備
  (6) 宗教的慣習と生計

おわりに: 「資源の共有と活用」に注目して

謝辞

参考文献


途上国障害者の貧困削減

■2010年11月2日 [日本語]
森壮也編. 2010.『途上国障害者の貧困削減: かれらはどう生計を営んでいるのか』東京: 岩波書店.

2011年度国際開発学会賞特別賞受賞。

※本のちらしをご自由にダウンロードください → [こちら] (PDF)

【本書の目次】
序章 障害統計と生計 (森壮也)
第1章 中国の障害者の生計: 政府主導による全国的障害調査の分析 (小林昌之)
第2章 フィリピンの障害者の生計: 2008年マニラ首都圏障害調査から (森壮也・山形辰史)
第3章 インドネシアの障害者の生計: 教育が貧困削減に果たす役割 (東方孝之)
第4章 ベトナムの障害者の生計: 外部環境とのかかわりについての事例調査を通した考察 (寺本実)
第5章 マレーシアの障害者の生計: 持続的生計アプローチの視点から (久野研二)
第6章 タイの障害者の生計: 統計調査とケーススタディから見える全体像 (福田暁子)
第7章 コートジボワールの障害者の生計: 公務員無試験採用制度の達成と課題を中心に (亀井伸孝)

各章の詳細については、岩波書店のウェブサイトをご覧ください。ちょっと立ち読みもできます。

【入手方法】

岩波書店のウェブサイト、または一般書店でご注文ください。[Amazon で見る]

【亀井分担執筆章(第7章)の概要】
亀井伸孝. 2010.「コートジボワールの障害者の生計: 公務員無試験採用制度の達成と課題を中心に」森壮也編『途上国障害者の貧困削減: かれらはどう生計を営んでいるのか』東京: 岩波書店. 187-211.

【第7章の冒頭】

本章は、アフリカにおける障害者の生計に関する研究の試みとして行われた、コートジボワール共和国における現地調査の報告である。同国においてこのテーマの調査が行われたのは、初めてのことである。

開発途上国における貧困削減の問題を検討する際、「障害」というテーマは避けて通れない。障害が貧困の原因となり、また結果ともなることがあるという相互の密接な関連を考えるならば(森編 [2008])、障害の問題を抜きにして貧困削減の議論を進めることは、大きな欠落を含んでいると言うべきである。

アフリカは、低開発国を数多く擁する大陸である(国連開発計画 [2010])。かつて「南北問題」と呼ばれていた問題群は、アジアやラテンアメリカの諸国の成長に伴って意味をなさなくなり、むしろ「アフリカ問題」と呼び直すべきであると指摘される(平野 [2002])。障害と貧困の関係は深いため、低開発地域であること自体が、アフリカにおける障害者の問題に取り組む十分な理由となるであろう。

アフリカでは、1999年にアフリカ統一機構(Organization of African Unity: OAU)が、2000〜2009年を「アフリカ障害者の10年」(African Decade of Persons with Disabilities)とすることを宣言し、さらに10年間延長された(2010〜2019年)(African Union [2008], SADPD [2009])。ところが、この取り組みにもかかわらず、アフリカ諸国における障害者の生計に関わる一次資料がほとんど見られないのも現実である。

アフリカで障害者をめぐる包括的な調査が行われてこなかった理由として、アフリカ諸国における障害者政策の欠如や不足、開発援助や布教に伴う支援などの実務が優先され、必ずしも社会調査が重視されてこなかったこと、アフリカ研究者の層の薄さなどが考えられるであろう。実証的研究によるデータが欠如しているため、アフリカ現地調査による実態把握は急務である。

アフリカには、都市生活者のみならず、狩猟採集や伝統的農耕、牧畜などの多様な生業文化をもった人びとが暮らしている。これら生業文化の多様性を反映した包括的な調査が行われることが望ましいが、今回の調査では都市部における障害をもつ人びとに焦点を定め、彼らの生計の実態を明らかにすることを目的とした。このことで、アフリカの都市部における政策と障害者の生活や労働の関わりが明らかに見えることであろうし、また、アジアや先進諸国などのほかの地域との比較の視点を得ることも可能となるであろう。

【第7章の構成】

はじめに: アフリカにおける障害調査の意義

第1節 現地調査の方法
 1. 調査地と調査期間
 2. 対象と調査法

第2節 調査結果
 1. 障害者数と国勢調査
 2. 政府機関
 3. 障害者関連法と政策
 4. 障害者公務員無試験採用制度
 5. 学校と教育
 6. 障害当事者団体と諸活動
 7. 個人の生計: 調査票から
 8. 個人の生活感覚: 直接観察と自由会話から
 9. そのほかのトピック

第3節 考察
 1. 公務員無試験採用制度の光と影
 2. アフリカ障害者の生活戦略
 3. アフリカ社会の特性にかかわる問題群

おわりに: アフリカの特性に根ざした「障害と開発」研究


障害と開発

■2008年2月20日 [日本語]
森壮也編. 2008. 『障害と開発: 途上国の障害当事者と社会』(研究双書 No. 567) 千葉: 日本貿易振興機構アジア経済研究所.

【本書の目次】
まえがき

第1章 「障害と開発」とは何か? (森壮也)

[第I部 「障害と開発」と政策]
第2章 開発援助と障害: 政策実践のためのフレームワーク (久野研二)
第3章 「障害と開発」問題への人間開発アプローチ (野上裕生)
第4章 障害者の権利条約における障害と開発・国際協力 (長瀬修)
第5章 障害者の司法へのアクセス: 中国障害者法律扶助制度の事例 (小林昌之)

[第II部 「障害と開発」と障害当事者]
第6章 CBR: 実践における可能性と課題: マレーシアにおける事例研究 (久野研二)
第7章 ろう者における人間開発の基本モデル: アフリカのろう教育形成史の事例 (亀井伸孝)
第8章 途上国での自立生活運動発展の可能性に関する考察 (中西由起子)
第9章 スリランカろう社会の形成とろう運動: シンハラ仏教ナショナリズムと民族紛争 (加納満)
第10章 フィリピンのろう教育とろうコミュニティの歴史: マニラ地区を中心とした当事者主体の運動の形成と崩壊、復活 (森壮也)

「障害と開発」を理解するためのキーワード
「障害と開発」年表

各章の詳細については、アジア経済研究所のウェブサイトをご覧ください。

【入手方法】

アジア経済研究所のウェブサイト、または一般書店でご注文ください。[Amazon で見る]

【亀井分担執筆章(第7章)の概要】
亀井伸孝. 2008.「ろう者における人間開発の基本モデル: アフリカのろう教育形成史の事例」森壮也編『障害と開発: 途上国の障害当事者と社会 (研究双書 No.567)』千葉: 日本貿易振興機構アジア経済研究所. 201-228.

【第7章の冒頭】

本章は、ろう者(手話を話す耳が聞こえない人々)における人間開発のあり方について検討することをテーマとする。

この問題を考えるとき、「ろう者が手話を話す言語集団を形成している」という特性を抜きに論じることはできず、その開発を計画するためにはこれまでにない新しいモデルが必要となる。このため、本章はこれまでの「障害」のとらえ方を再検討し、その課題を指摘することから始めなければならない。

なお、本報告のもととなった調査は、1997〜2006年にかけて、西・中部アフリカ諸国(カメルーン、ガボン、ベナン、ガーナ、ナイジェリア)のろう者コミュニティにおける文化人類学的フィールドワークにより行われた。ろう者が形成する手話言語集団の実態を学び、それに即した開発のあり方を考える際には、当該社会の文脈において集団の状況を全体的にとらえる文化人類学の方法が有効であろう。これらの国々のろう者の手話、文化、歴史に関する詳細な民族誌的記述は別途刊行したため(亀井[2006a])、ここではとくに「障害と開発」という文脈に関わる諸問題を検討し、ろう者特有のニーズに基づいた開発の基本モデルを示すことに議論をしぼりたい。

【第7章の構成】

第1節 はじめに: 障害をめぐるモデルとろう者
第2節 ろう者における開発と障壁
第3節 アフリカのろう教育形成史
第4節 他地域との比較
第5節 人間開発のもうひとつの課題
第6節 おわりに: 集団モデルの有用性と必要性


報告書

■2014年3月31日 [日本語]
亀井伸孝. 2014.「2013年セネガル障害者予備調査報告: 「アフリカ障害者の10年」地域事務局と教育、運動の概要」森壮也編『アフリカの障害者: 障害と開発の視点から 調査研究報告書』千葉: 日本貿易振興機構アジア経済研究所. 100-117.

[調査研究報告書 (中間報告, 2014年3月刊行, 日本語)]
[調査研究報告書内の亀井伸孝による分担執筆論文 (PDF) (中間報告, 2014年3月刊行, 日本語)]

【要旨】「アフリカの障害者」の共同研究の一環として、セネガル共和国における予備調査を行った。障害者の生活と運動、「アフリカ障害者の10年」地域事務局の活動、ろう者コミュニティと手話の各分野について、おもにインタビューや参与観察を通じた概況調査を行った。セネガルが国際的な障害者当事者運動の拠点のひとつとなっている状況を明らかにするとともに、障害をもつ同国の住民の生活・労働調査に関する展望を示す。

【キーワード】セネガル、障害、ダカール、アフリカ障害者の10年、西アフリカ障害者団体連盟

【目次】
はじめに:調査の目的と方法
I. セネガル:国際的な障害者当事者運動の拠点
 1. アフリカ障害者の10年:西アフリカにおける取り組み
 2. 西アフリカ障害者団体連盟
II. セネガル共和国の障害者人口、政策
 1. 統計による障害者人口
 2. 憲法上の規定と政策
III. セネガル共和国の教育と運動
 1. セネガルにおける特別支援教育
 2. セネガルの障害者団体
IV. ろう者コミュニティの文化と言語
 1. ろう者の団体
 2. ろう者の宗教
 3. セネガルの手話言語: 一般的な特徴
 4. セネガルの手話の固有名詞
おわりに:「資源の共有と活用」に注目して
 1. 予備調査の成果と試行的生活・労働調査
 2. 「障害と開発」研究と資源人類学の接点

表1 アフリカ障害者の10年西・中部・北アフリカ地域事務局がこれまでに政府などと関わりをもった国ぐに
表2 1998年に行われた国勢調査における障害者数
表3 2002年に行われた国勢調査における障害者数
表4 2002年に行われた国勢調査における障害者の居住地域
表5 セネガル共和国の障害児特別支援学校の一覧
表6 セネガル障害者団体連盟(FSAPH)加盟27団体の一覧
表7 セネガルにおけるろう者の団体
表8 収集したセネガルの手話における固有名詞

【入手方法】
『アフリカの障害者: 障害と開発の視点から 調査研究報告書』(PDFで全文ダウンロードできます)

■2008年3月6日 [日本語]
亀井伸孝. 2008.「途上国障害者の生計研究のための調査法開発: 生態人類学と「障害の社会モデル」の接近」森壮也編『障害者の貧困削減: 開発途上国の障害者の生計 中間報告』千葉: 日本貿易振興機構アジア経済研究所. 31-47.

[調査研究報告書 (中間報告, 2008年3月刊行, 日本語)]
[調査研究報告書内の亀井伸孝による分担執筆論文 (PDF) (中間報告, 2008年3月刊行, 日本語)]

【要旨】開発途上国の障害をもつ人びとの生計の実態を明らかにするとともに、その人間開発のプロセスに障壁をもたらす社会的要因の除去と、利用可能な資源の開発を提言するためには、現地調査にもとづいた実証的研究が必要である。ただし、障害の要因を社会環境に求めようとする「障害の社会モデル」を前提とした調査を立案、実行しようとする場合、個人や集団の生活と生計に障壁をもたらすと考えられる要因があまりに多岐にわたりすぎるため、質問紙の調査項目の数がかぎりなく増加していくなどの問題を抱えこむこととなる。本論では、これまで障害の分野とは関わりが薄かった生態人類学(人間と自然環境・資源との関わりを明らかにする人類学の一分野)の概要を紹介しつつ、この分野が「障害と開発」研究と多くの共通点をもつことを指摘する。そして、「障害の社会モデル」が視野に入れようとする多様な社会的要因を、調査対象者の生活様態に即した形で効率よく分析するにあたり、生態人類学の調査法が有効な手段となりうることを示す。途上国の障害者の生計研究において生態人類学的アプローチがなしうる寄与と課題をまとめ、各種の調査法の長所を活用する効果的な組み合わせ方に関しても検討する。

【キーワード】生態人類学、障害の社会モデル、調査法、参与観察、計量的手法

【目次】
1. はじめに: 障害観の転換と調査法
2. 障害の社会モデルが抱えた課題
3. 生態人類学とその調査法
4. 生態人類学的アプローチの活用
 長所1: 重要要因の抽出
 長所2: 量的な把握
 長所3: 想定外の事態への対処
5. 生態人類学と「障害の社会モデル」の接近
6. おわりに: 複数の調査法の共同作業
謝辞
文献

【入手方法】
『障害者の貧困削減: 開発途上国の障害者の生計 中間報告』(PDFで全文ダウンロードできます)

■2006年3月 [日本語]
亀井伸孝. 2006.「ろう者によるろう教育事業: 西・中部アフリカのろう教育形成史の事例」森壮也編『「開発問題と福祉問題の相互接近: 障害を中心に」調査研究報告書』千葉: 日本貿易振興機構アジア経済研究所. 119-138.

[調査研究報告書 (中間報告, 2006年3月刊行, 日本語)]
[調査研究報告書内の亀井伸孝による分担執筆論文 (PDF) (中間報告, 2006年3月刊行, 日本語)]

【要旨】本章では、手話を話すろう者における人間開発のあり方について検討する。西・中部アフリカにおいて、ろう者たちが主導的な役割を担ったろう教育事業の事例に注目し、ろう者の教育開発において手話とその言語集団がきわめて重要な意味をもっていたことを明らかにする。それをふまえ、少数言語集団というろう者の特性をふまえた開発計画の必要性、ならびに、個人中心のモデルをこえた新しいパラダイム(集団モデル)の必要性を述べる。

【キーワード】西・中部アフリカ、手話、ろう者によるろう教育、言語集団、集団モデル

【目次】
第1節. はじめに: 障害の社会モデルとその課題
第2節. ろう者の開発における障壁
第3節. 西・中部アフリカのろう教育事業
第4節. アフリカにおけるろう者の達成と課題
第5節. 集団モデルの有用性と必要性

【入手方法】
『開発問題と福祉問題の相互接近: 障害を中心に』調査研究報告書(PDFで全文ダウンロードできます)


雑誌

■2016年10月15日 [日本語] 新着!
亀井伸孝. 2016.「アフリカ社会の多様性に寄り添う開発を目指して: 西アフリカの障害をもつ人びとの風景」『アジ研ワールド・トレンド』(特集: TICAD VIの機会にアフリカ開発を考える) (日本貿易振興機構アジア経済研究所) 253 (2016年11月): 16-19.
[全文を読む (PDF)]

【ちょっと立ち読み】
●変わりゆくアフリカイメージ
かつて、アフリカといえば「野生の王国」「飢餓と貧困」「たえまない紛争」「児童労働」と、低開発や貧困のイメージをモザイクのように寄せ集めた語りが多かった。

一方、近年では、そのネガティブイメージを転換させようという意図からか、「資本主義最後のフロンティア」「人口が増大する若い大陸」「投資先として魅力ある市場」などと、経済成長の観点からの期待が寄せられる時代となった。

ネガティブからボジティブへ。排除から包摂へ。黙殺から関心の対象へ。この10年ほどで、アフリカのイメージは大いに変わってきたと言えよう。アフリカを一方的な援助の対象と位置づけるよりも、協働し、対話し、ビジネスのパートナーとしてフェアにとらえるまなざしも生まれつつあるようだ。

●変わらないまなざし
このような変化の中で、依然として変わらない点も見受けられる。

まず、アフリカの多様性を捨象し、均質なイメージでとらえがちである点である。次に、ポジティブにせよネガティブにせよ、経済の観点で紋切り型に語ることが多く、人びとの生活や価値観が浮き彫りになりにくい。そして、アフリカ社会の中に確かに存在しているマイノリティたちの姿がかき消されてしまいがちな点がある。

アフリカを一律に貶めていた時代から、成長市場として一律に持ち上げる時代へ。その変化について歓迎しないわけではないものの、アフリカ地域研究者としてその多様性に地味につきあってきたいち学徒としては、心から歓迎できないものをも感じている。

今日の開発は、必ずしも経済指標では測りえない、人びとの自由の拡大と幸福追求という思想的背景ぬきに語ることができない(本特集2-3ページ、武内執筆稿参照)。もとより多様性を帯びている社会の構成員のそれぞれにおいて、固有のニーズと幸福追求のありかたを検討する必要がある。「みながみな、同じ方法で自由かつ幸福になれる」と考えること自体、現在の開発の思想に適していない。

●障害と貧困の因果関係
社会の多様性の中でも、本稿ではとくに障害をもつ人びとに着目したい。先進諸国においても、優生思想の名において、しばしば「存在しない方がよい人びと」と見なされ、あるいは教育や労働の場から排除され、各社会における貧困層におとしめられてきた。

こうしたことは、途上国においても顕著である。障害が貧困と分かちがたく因果関係で結びついていることは、すでに指摘されている(森編、2008)。障害をもつ人たちのことを忘れ、社会の構成員がみなほぼ同じ身体をそなえているという発想を持ち続けているかぎり、どのような開発の提言がなされても貧困問題は解決しえない(本特集14-15ページ、森執筆稿参照)。

変わりゆくアフリカイメージの中で、障害をもつ人びとの姿はどれほど可視化されているだろうか。政府高官から市井の労働者まで、いくつかの風景を点描したい。

(中略)

●開発のすべての領域に障害をもつ人たちがいる
多様なアフリカの、多様な障害をもつ人びとの姿を、本稿で網羅的に描写することは困難であるが、いくつかの事例から読み取れるメッセージを抽出してみよう。

まず、障害をもつ人たちは少なからず存在していて、現地調査で頻繁に出会うことができる。

大臣から物乞いまで、社会階層はさまざまである。みな、ありあわせの資源を巧妙に利用しており、無力で脆弱な人びとには見えない。

政策の進展も見られるが、理想的に進むとは限らず、その不備をしたたかに補いながら権利を擁護し、生活を成り立たせている。

残念ながら、これまでの「アフリカ開発」といった大文字のスローガンの中に、こうした実に魅力的で学ぶ価値のある人びとの姿が映り込むことはまれであった。

しかし、考えてみれば当然のことながら、貧困のみならず、教育、ジェンダー、保健衛生、食料、都市、エネルギー、難民、そのほか、およそ開発に関わるすべての領域に、障害をもつ人たちは必ず存在している。だれよりも本人たちが、自分たちのことを知ってほしい、そしてそのニーズへの理解に根ざした適切な開発をと望んでいる。

だれかを置き去りにし続ける開発ではなく、アフリカ社会の多様性にきめ細やかに寄り添いうる包摂的な開発を目指して。アフリカ地域研究が提言できる視点は、いっそう重要となるに違いない。

【目次】
変わりゆくアフリカイメージ
変わらないまなざし
障害と貧困の因果関係
セネガル大統領顧問の車いすの女性と法整備の進展
コートジボワールでは下肢障害男性が大臣に
コートジボワールの障害者公務員無試験採用制度
非障害者とつながる:下肢障害者の洋裁センター
仲間の雇用を作り出す:ろう者の織物工場
開発のすべての領域に障害をもつ人たちがいる

【入手方法】
『アジ研ワールド・トレンド』のウェブサイト、または一般書店でご注文ください。

■2009年9月1日 [日本語]
亀井伸孝. 2009.「公務員無試験採用制度の達成と課題を中心に: コートジボワールの障害者の生計」『アジ研ワールド・トレンド』(日本貿易振興機構アジア経済研究所) 168 (2009年9月): 28-31.

【要旨】この小論のもととなった現地調査は、「障害者の貧困削減: 開発途上国の障害者の生計」研究会の活動の一環として、2008年10月に行われた。コートジボワール政府は、障害をもつ人たちを公務員として無試験で採用する制度をもっている。一般には、公務員になるためには採用試験に合格しなければならないが、障害をもつ人たちに対して、その試験を免除して採用するという措置である。

同国における短期調査の結果、障害をもつ人たちの階層が二分していること、とくに、公務員として採用され、当事者運動に邁進できる階層と、路上の雑業などをなりわいとする所得の低い、あるいはないに等しい階層があることが浮き彫りになった。

とはいえ、貧困状態にある人たちにおけるあっけらかんとした明るさは、調査で訪れた筆者の印象に強く残る。このような人たちを「低開発アフリカにおける無策の被害者」と断定的に描くのも、また、ためらわれてしまう。

文化人類学的な参与観察は、信頼関係に根ざした長期調査のなかで現場を理解することを特徴とするため、しばしば現状肯定的な結論を導く傾向があるかもしれない。一方、介入を予期しながら調査に入る開発研究者は、むしろ国際比較などを念頭に、開発途上国の諸現象を、改変を要する「問題」という前提とともにとらえる傾向をもつであろう。

アフリカの状況においては、先進国の社会福祉政策との落差を強調するよりも、むしろ貧困状況のなかにおける現実の生活戦略を調査者が学び、それを助長していく形での提言と支援が功を奏するのではないだろうか。「障害と開発」は、文化人類学と国際開発研究の思想と方法が、幸福な出会いをすることができるフィールドのひとつにほかならない。

【目次】
1. 一枚の笑顔の写真
2. 調査の方法と工夫
3. 人口と社会福祉政策
4. 障害者公務員無試験採用制度
5. 個人の生計と生活上のバリア
6. 笑顔の周りに資源の配置を

【入手方法】
『アジ研ワールド・トレンド』のウェブサイト、または一般書店でご注文ください。

■2006年12月1日 [日本語]
亀井伸孝. 2006.「開発において手話の自由を: ろう者の言語的自由と豊かさに関する逆説」『アジ研ワールド・トレンド』(日本貿易振興機構アジア経済研究所) 135 (2006年12月): 16-19.

【要旨】先進国と途上国を比べて論じるとき、一般に「豊かな国ほど個人の自由度が高い」と考えられがちである。しかし、ことろう者の言語の問題に限っては、裕福な国・地域・階層のろう者ほど、かえって手話を話す自由が奪われるケースが多かったという奇妙な逆説がある。私たちはろう者のための開発を検討するにあたり、言語的自由を奪われてきたろう者の歴史から真摯に学び、その自由を妨げないような形でエンパワーメントを考えていく必要がある。

【目次】
1. ろう者の言語、手話
2. 先進国における手話の抑圧: ヨーロッパ・日本
3. ろう者によるろう教育事業: 西・中部アフリカ
4. 人種別ろう教育の矛盾: 南アフリカ・アメリカ
5. なぜ豊かさは言語的自由を奪ったのか
6. ある逆コースの事例: ガボン
7. 言語的自由を通したエンパワーメントへ

【入手方法】
『アジ研ワールド・トレンド』のウェブサイト、または一般書店でご注文ください。


学会発表

2016年6月4日 [日本語]
亀井伸孝. 2016. 「趣旨説明」「セネガルにおける障害者の職業訓練と生業: 技能伝承におけるふたつのモデル」日本アフリカ学会第53回学術大会, フォーラム「アフリカの「障害と開発」」(代表者: 亀井伸孝) (2016年6月4日, 神奈川県藤沢市, 日本大学生物資源科学部キャンパス).

■2014年5月24-25日 [日本語]
亀井伸孝. 2014. 「セネガル障害者調査予備報告: マイノリティによる資源利用と共有」(ポスター発表) 日本アフリカ学会第51回学術大会 (2014年5月24-25日, 京都府京都市左京区, 京都大学).

■2009年6月6日 [日本語]
亀井伸孝. 2009.「生計調査におけるフィールドワークの活用: コートジボワールの障害者調査の事例」国際開発学会第10回春季大会 (2009年6月6日, 神奈川県藤沢市, 日本大学).

■2006年11月 [日本語]
亀井伸孝. 2006.「アフリカ比較ろう教育研究: 隷従の中の豊かさか、自由の中の貧困か」国際開発学会第17回全国大会, 企画セッション「障害と開発: 開発から見えてくる障害、障害から見えてくる開発」(2006年11月, 東京都文京区, 東京大学).

【要旨】世界各国で障害児の統合教育が推進される中、ろう者は「手話を話す」という固有の言語的ニーズをもつため、ろう教育での手話使用やろう学校存続の必要性は、近年国際的にも認められつつある(「サラマンカ声明」ほか)。しかし、手話を教授言語とする教育を理想的に実現することは難しく、開発途上国においても大きな課題である。

報告者は、1997年から中部・西アフリカ諸国におけるろう者の手話言語とろう教育に関する人類学的調査を行ってきた。本報告では、ある意味で好対照を示すアフリカの二つの国の事例を比較し、ろう者の人間開発において有効な教育・言語政策とは何かを検討する。

ガーナは政府がろう教育の整備に力を入れてきた国だが、それは功罪両面をあわせもっている。もともとろう者によってろう教育が始められたこの国では、政府がろう学校を国有化し、大学に教員養成課程を設け、設備と人材の拡充を図ってきた。ところが教員の専門性を高めた結果、高等教育にアクセスしづらいろう者が教員に採用されにくくなり、聞こえる教員たちによる、ろう児に分かりにくい手話で授業が進められるという事態を招いた。

教授言語としての手話という点では、ろう教育が私立学校にゆだねられているカメルーンの方が自由度が高い。ろう者たちが自分たちで学校を作り、自らの言語である手話で教えているからである。ただし、経営難に陥っている学校が多く、すでに閉鎖されてしまった例もある。

マジョリティに無理に同化させるのでもなく、さりとて分離によって困窮に陥ってしまうのでもなく。成人ろう者の手話言語の能力を、教育の中で最大限に活用するための、新しい教育開発モデルが求められている。

※本研究会のメンバーにより、国際開発学会で初めて企画分科会「障害と開発」が行われました。


研究会発表・講演など

2016年5月20日 [日本語]
亀井伸孝. 2016. 「西アフリカにおける「障害と開発」: セネガルの事例を中心に」日本貿易振興機構アジア経済研究所・連続専門講座「TICAD VI の機会にアフリカ開発を考える」「コース2: アフリカの『障害と開発』を考える」(2016年5月20日, 東京都港区, ジェトロ本部).

■2014年12月26日 [日本語]
亀井伸孝. 2014. 「2014年セネガル現地調査報告」日本貿易振興機構アジア経済研究所「アフリカの障害者: 障害と開発の視点から」2014年度第5回研究会 (2014年12月26日, 千葉県千葉市美浜区, 日本貿易振興機構アジア経済研究所).

■2014年5月2日 [日本語]
亀井伸孝. 2014.「コメント:『アフリカの障害者: 障害と開発の視点から』中間報告書 (森壮也編. 2014. 千葉: 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所)」(2014年5月2日, 千葉県千葉市美浜区, 日本貿易振興機構アジア経済研究所).

■2013年10月4日 [日本語]
亀井伸孝. 2013. 「2013年8月セネガル現地調査報告」日本貿易振興機構アジア経済研究所「アフリカの障害者: 障害と開発の視点から」(2013年10月4日, 千葉県千葉市美浜区, 日本貿易振興機構アジア経済研究所).

■2008年11月29日 [英語]
Kamei, Nobutaka. 2008. The livelihood of people with disabilities in West Africa: Case of Côte d'Ivoire. In: The International Workshop "Poverty reduction for the disabled: Livelihood of the disabled in developing countries" (November 29, 2008, Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization, Mihama, Chiba, Chiba, Japan).
[亀井伸孝. 2008. 「西アフリカにおける障害者の生計: コートジボワールの事例」「障害者の貧困削減:開発途上国の障害者の生計」研究会国際ワークショップ (2008年11月29日, 千葉県千葉市美浜区, 日本貿易振興機構アジア経済研究所). ]

■2008年11月15日 [日本語]
亀井伸孝. 2008.「コートジボワールの障害をもつ人びとと労働、政策: 2008年アビジャン調査報告」日本貿易振興機構アジア経済研究所「障害者の貧困削減: 開発途上国の障害者の生計」研究会 (2008年11月15日, 千葉県千葉市美浜区, 日本貿易振興機構アジア経済研究所).

【キーワード】アフリカ、コートジボワール、障害、労働、障害者公務員無試験採用制度

【要旨】アフリカにおける障害と開発に関するデータは乏しく、実態の把握が急務である。報告者は、2008年10月にコートジボワール共和国アビジャンにおいて障害をもつ人びと、団体、学校、関係政府機関を対象とした現地調査を行った。本報告では、統計資料、障害者団体での聞き取り、障害をもつ個人へのインタビューなどにもとづき、同国の障害をもつ人びとの生計、労働、政策の概要を紹介する。とりわけ、アフリカにおいてきわめてユニークな試みであるといえる障害者公務員無試験採用制度の光と影を中心に、同国の現状と課題を当事者の視点に即して浮き彫りにすることを試みたい。

■2008年1月12日 [日本手話]
亀井伸孝. 2008.「途上国障害者の生計研究のための調査法開発: 生態人類学と『障害の社会モデル』の接近」日本貿易振興機構アジア経済研究所「障害者の貧困削減: 開発途上国の障害者の生計」研究会第12回研究会 (2008年1月12日, 千葉県千葉市美浜区, 日本貿易振興機構アジア経済研究所).

2007年度末中間報告書の概要発表。

■2007年10月8日 [日本語; 日本手話]
亀井伸孝. 2007.「途上国障害者の生計研究における質的調査の役割: 寄与と課題」日本貿易振興機構アジア経済研究所「障害者の貧困削減: 開発途上国の障害者の生計」研究会第9回研究会 (2007年10月8日, 千葉県千葉市美浜区, 日本貿易振興機構アジア経済研究所).

【要旨】途上国の障害をもつ人びとの生計の実態について明らかにし、あわせてその人間開発の過程に障壁をもたらす社会的要因を指摘するためには、現地調査にもとづいた実証的研究が必要である。生計調査においては、しばしば質問紙を用いたインタビューが行われるが、本発表では、障害者の生計研究においてその調査法がどれほど有効であるかを検討しようとする。

「障害の社会モデル」を前提とした調査を立案し実行する場合、障壁をもたらすと想定される社会的要因があまりに多様すぎるがゆえに、質問紙が膨大な分量となってしまうだけでなく、調査者が想定していない事象をすくいとれない可能性もはらんでいると考えられる。

長期参与観察に基づいた事例研究は、このような質問紙調査の不備を補うとともに、社会モデルが視野に入れようとする多様な社会的要因を、調査対象者の生活に即した形で効率よく拾い出す手段となる可能性がある。参与観察調査が生計研究にどのような寄与をし、またどのような課題を抱えているかを分析する。あわせて、各種の調査法の長所を活用するための、効果的な組み合わせ方についても議論したい。

事例としては、これまでの西・中部アフリカ諸国におけるろう者(手話を話す聴覚障害者)たちの教育と労働およびそれに関する調査の例を示す。

【キーワード】途上国の障害者; 生計; 調査法; 質的調査; 参与観察; 事例研究

■2006年10月14日 [日本手話]
亀井伸孝. 2006.「アフリカのろう教育比較研究: ガーナ・カメルーン・ナイジェリア」日本貿易振興機構アジア経済研究所「開発問題と福祉問題の相互接近」研究会第8回研究会 (2006年10月14日, 千葉県千葉市美浜区, 日本貿易振興機構アジア経済研究所).

【要旨】ガーナ、カメルーン、ナイジェリアの3ヶ国のろう教育史を比較する。いずれの国でもろう教育は私立学校において始められ、早くからろう者による手話での教育が影響力を持っていた。しかし、政府との関係において三つの国は異なる道を歩むこととなり、現在のろう教育やろう者コミュニティの活動にも違いが見られる。開発途上国において、手話を教授言語とするろう教育を中心にしたろう者のエンパワメントを図る際、政策/教育開発/資源分配/支援はどのようにあるべきだろうか。

■2006年7月29日 [日本語]
亀井伸孝. 2006.「ろう者・教育・人間開発: 西・中部アフリカの事例」日本貿易振興機構アジア経済研究所夏期公開講座・コース6「障害と開発: 開発のイマージング・イシュー」(2006年7月29日, 東京都港区, ジェトロ東京本部).

■2006年6月26日 [日本手話]
亀井伸孝. 2006.「アフリカ手話言語研究の現在: LEA2006報告」日本貿易振興機構アジア経済研究所「開発問題と福祉問題の相互接近」研究会第3回研究会 (2006年6月26日, 千葉県千葉市美浜区, 日本貿易振興機構アジア経済研究所).

【要旨】2006年6月にノルウェーのオスロ大学で開催されたアフリカ言語・教育会議 (Languages and Education in Africa Conference (LEA2006)) の参加報告を行う。とくに、アフリカ各地の手話言語とろう教育に関わる研究成果の現状と課題をまとめた。

■2005年12月19日 [日本手話]
亀井伸孝. 2005.「文化的多様性の中のマイノリティの権利: ろう者観/手話観の多様性の事例から」(内藤順子氏講演「チリにおけるCBRをめぐる諸問題」におけるコメント) 日本貿易振興機構アジア経済研究所「開発問題と福祉問題の相互接近」研究会第8回研究会 (2005年12月19日, 千葉県千葉市美浜区, 日本貿易振興機構アジア経済研究所).

【要旨】ろう者は手話という言語を世界各地で自然発生的に生み出してきたが、これは地域、時代によらずおおむね普遍的な現象と言ってよい。一方、手話を取り巻く聞こえる人々の文化や制度はきわめて多様で、手話の使用を奨励する国もあれば、教育での手話使用を禁じてきた国もある。後者の場合、多くのろう者が身体的苦痛を覚えることになるが、人類学者は「文化的多様性」と称して現状を手放しで擁護してよいものかどうか。

■2005年10月31日 [日本手話]
亀井伸孝. 2005.「手話と潜在能力: 西アフリカのろう教育形成史」日本貿易振興機構アジア経済研究所「開発問題と福祉問題の相互接近」研究会第7回研究会 (2005年10月31日, 千葉県千葉市美浜区, 日本貿易振興機構アジア経済研究所).

【要旨】ろう者たちは、世界各地で手話言語を話すコミュニティを形成してきた。この報告では、西アフリカのナイジェリアを拠点としてアフリカ13ヶ国に展開した、ろう者たちによるろう教育事業とその影響を事例として紹介する。ろう者の潜在能力に着目した人間開発を計画する上で、手話言語集団の形成を柱とする教育・言語政策が不可欠であることを論じる。


現地調査

■2014年10-11月
セネガル共和国における文化人類学的/開発学的調査
ダカールおよび近郊都市(ピキン、ゲジャワイ、チャロイ)
西アフリカにおける障害者の生活と運動の概況/セネガルのろう者コミュニティと手話言語

■2013年8月
セネガル共和国における文化人類学的/開発学的調査
ダカールおよび近郊都市(ピキン、チャロイ)、リンゲールおよびトゥーバ
西アフリカにおける障害者の生活と運動の概況/セネガルのろう者コミュニティと手話言語

■2008年10月
コートジボワール共和国における文化人類学的/開発学的調査
アビジャン
障害者の生計と労働



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