AACoRE > Laboratories > Kamei's Lab > Index in Japanese
ILCAA
亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

日本文化人類学会公開シンポジウム
「大学で学ぶ文化人類学: フィールドワーク教育の試みと可能性」
2014年7月26日, 名古屋

日本語 / English / Français
最終更新: 2015年9月25日

公開シンポジウム20140726 本シンポジウムの継続事業、公益信託澁澤民族学振興基金民族学振興プロジェクト助成「「大学教育とフィールドワーク」に関する実践経験交流と教材・指導書開発」のウェブページを開設 (2015/09/25) >> [こちら]

本シンポジウムの継続事業として、公益信託澁澤民族学振興基金民族学振興プロジェクト助成「「大学教育とフィールドワーク」に関する実践経験交流と教材・指導書開発」が採択されました (2015/04/01)

【満員御礼】約120人のご参加をいただいて盛大に開催!(2014/07/26)

開催報告をアップしました。(2014/07/30) [報告書はこちら] (PDF)

■シンポジウム開催概要
■プログラム
■趣旨説明: 大学で学ぶ、大学の外で学ぶ
■パネリスト紹介
■主催者関連リンク
■報告要旨集
■報告要旨「学生とともに写真展をする: 野外撮影の技法と公開の姿勢」(亀井伸孝)
■報告要旨集で参照されている文献、ウェブサイト
■これからフィールドワークを学ぶ人のために
■公開シンポジウム報告


■シンポジウム開催概要

公開シンポジウム「大学で学ぶ文化人類学:フィールドワーク教育の試みと可能性」

主催: 日本文化人類学会
共催: 愛知県立大学地域連携センター、中部人類学談話会

日時: 2014年7月26日(土)13:30〜16:45(開場13:00)
場所: 愛知県産業労働センターウインクあいち 10階 大会議室1001 [アクセス]

趣旨:

備考:

連絡先・お問い合わせ:


■プログラム

司会・コーディネータ: 亀井伸孝


■趣旨説明: 大学で学ぶ、大学の外で学ぶ

このシンポジウムは、「学生が自ら現地調査する」ことに重きを置いた教育実践の事例を紹介することで、大学での文化人類学教育の魅力を示すことを目的とします。

文化人類学は、19世紀に誕生した、異文化理解、他者理解を目的とする学問です。人間の諸集団を生まれながらにして優秀/劣等と分類する思想(人種主義)が横行していた時代、そのような序列を否定し、さらに文化相対主義を打ち立てることによって、世界のあらゆる文化に序列を設けず、常に他者を尊重して学ぶという姿勢を確立しました。

このような異文化理解の手法として練り上げられたのが、「フィールドワーク」という調査法です。20世紀初頭、B. マリノフスキーが創始したとされるフィールドワークでは、現地に長期間滞在し、相手の言語を学び、信頼関係を育みながら、経験を通じて文化の諸側面を学ぶといった点を重視します。

異文化を丁寧に学ぶ上で、この手法がそなえている長所はいくつも挙げられます。五感のすべてを活用できること。相手の言語を通じて緻密な情報を得られること。表面的な付き合いでは得られないことを学べること。相手の立場や視点を擬似的に体験できること。多くの要素を結びつけて文化を全体として把握できること。そして、予測不可能な新しい発見ができることなどです。このような長所をそなえたフィールドワークは、やがて文化人類学の標準的な手法として普及し、多くの民族誌という成果を上げてきました。また、社会学などの諸学問にも取り入れられ、今日では多くの分野がこの方法を活用しています。

一方で、フィールドワークには短所もあります。時間がかかりすぎること。扱える事例が少ないこと。体系的に教えにくく、個人的な芸当となりやすいこと。時に調査者の主観がまざったり、バイアスのある視点で相手を見てしまったりすることもあります。さらには、調査地での人間関係の中で相手に迷惑をかけてしまったり、また、多少の危険も伴ったりすることもあるでしょう。

こうした弱点をもちながらも、フィールドワークは、今もなお世界中で行われています。それは、この調査法がもたらす「丁寧な理解」と、どのような事態にも対処できる「方法の柔軟さ」にあると言えます。遠くない将来、月や火星にフィールドワークに行く人も現れるに違いありません。

フィールドワークは、体験を通じて学ぶため、講義室で教えることが難しいスキルです。しかし、知識の詰め込みだけでなく、自分で問題発見・問題解決ができることが期待されている今日、大学のキャンパスを出て、自然と社会のただ中で自ら調査し、それをまとめて成果を公開するという実践的な教育は、これからますます重要となるに違いありません。

このシンポジウムでは、学生たちとともにフィールドへ出かけ、さまざまな方法を組み合わせながら、調査と成果公開、社会への還元に取り組んでいる文化人類学者たちの事例報告をもとに、文化人類学教育のこれからについて考えてみたいと思います。

主催者を代表して:亀井伸孝(日本文化人類学会理事/愛知県立大学)


■パネリスト紹介

赤嶺淳(一橋大学大学院社会学研究科)
亀井伸孝(愛知県立大学外国語学部国際関係学科)(趣旨説明/司会・コーディネータを兼ねる)
南出和余(桃山学院大学国際教養学部国際教養学科)
内藤直樹(徳島大学総合科学部社会創生学科)
竹川大介(北九州市立大学文学部人間関係学科)
松田凡(京都文教大学総合社会学部)
和崎春日(中部大学国際関係学部・民族資料博物館)(コメンテータ)

■主催者関連リンク

日本文化人類学会
愛知県立大学
中部人類学談話会 (日本文化人類学会中部地区研究懇談会)


■報告要旨集

亀井伸孝編. 2014.『公開シンポジウム「大学で学ぶ文化人類学: フィールドワーク教育の試みと可能性」(2014年7月26日, 愛知県名古屋市中村区, ウインクあいち)』東京: 日本文化人類学会. [総ページ数: 14ページ]


もくじ

プログラム ……………………………………1

趣旨説明: 大学で学ぶ、大学の外で学ぶ ……………………………………2
亀井伸孝(日本文化人類学会理事/愛知県立大学)

学生とともに聞き書きをする: インタビューと記録の技法 ……………………………………3
赤嶺淳(一橋大学)

学生とともに写真展をする: 野外撮影の技法と公開の姿勢 ……………………………………4
亀井伸孝(愛知県立大学)

はじめに: 消費する人から創る人へ
「国際関係学科フィールドワーク・フェスタ」発足のきっかけ
「国際関係学科フィールドワーク・フェスタ」3年間のあゆみ
いくつものスピンオフ企画
撮影調査実習、スケッチ実習も
おわりに

学生とともに映像作品を作る: 映像人類学の技法と新たな表現発信 ……………………………………6
南出和余(桃山学院大学)

はじめに
メディア教育としての映像発信
映像制作教育実践
まとめにかえて

学生とともに地域に生きる: 調査実習と地域への成果還元 ……………………………………8
内藤直樹(徳島大学)

学生とともに店を出す: 市場からまなぶ人づきあい ……………………………………9
竹川大介(北九州市立大学文学部)

学生とともにエチオピアを訪ねる: 海外調査実習と国際協力 ……………………………………11
松田凡(京都文教大学)

はじめに
プログラムの概要
総括と課題

これからフィールドワークを学ぶ人のために ……………………………………13
亀井伸孝

ブックガイド
日本文化人類学会が編んだ決定版この1冊!
スキルについて学ぶなら
成果還元や倫理について学ぶなら
雑誌、シリーズ刊行物
お役立ちウェブサイト

[報告要旨集の表紙と奥付] (PDF)


■報告要旨「学生とともに写真展をする: 野外撮影の技法と公開の姿勢」(亀井伸孝)

亀井伸孝. 2014.「学生とともに写真展をする: 野外撮影の技法と公開の姿勢」亀井伸孝編『公開シンポジウム「大学で学ぶ文化人類学: フィールドワーク教育の試みと可能性」(2014年7月26日, 愛知県名古屋市中村区, ウインクあいち)』東京: 日本文化人類学会. 4-5.


学生とともに写真展をする: 野外撮影の技法と公開の姿勢

亀井伸孝
愛知県立大学

■はじめに:消費する人から創る人へ

現代におけるフィールドワークの意義とは何だろうか。ネットであらゆる情報が入手できてしまう便利すぎる時代に、あえて「書を捨てて、ネットも捨てて」、屋外に行って見聞きすることの意義は何か。それは、「コンテンツを消費する人から、創る人への脱却」のためであると私は考えている。

本報告では、愛知県立大学外国語学部国際関係学科において、2011年から取り組んでいる「フィールドワーク・フェスタ」の話題を中心に、その効果を考えてみたい。

■「国際関係学科フィールドワーク・フェスタ」発足のきっかけ

国際関係学科は、2009年に発足した新しい学科である。私は新学科発足3年目の2011年に着任した。その時に学生たちから聞こえてきたのは、「国際って、何やってるのかよくわからない」というボヤキのような声であった。地域や言語の多様さが、学科としての特色のなさというイメージを生んでいた。一方、学生たちが夏休みに何をするか尋ねてみたところ、世界各地に留学に行き、旅行に行き、また、ボランティアに参加すると言う。その直接的な体験自体がまたとない学びであり研究であると気付いた私は、学生たちを「受け身の学び手」に留め置くのではなく、「体験を発信する側」に位置づけよう、それを学科の特色にしていこうと着想したのである。「じゃあ、秋に帰国したら、みんなで旅の体験を持ち寄るのはどう?」「あ、それおもしろそうですね」という何気ない会話から始まった。

2011年の秋に、世界中から帰ってきた学生たちとさっそく相談し、三つの企画をすることとした。「旅の写真展」(自分たちが撮影した写真をパネルで展示する)、「旅の報告会」(写真や動画を持ち寄って口頭発表する)、「旅の茶話会」(旅先のお土産を持ち寄り、また現地で覚えてきた料理を作ってみんなで食べる)である。これらを「国際関係学科フィールドワーク・フェスタ」と総称して、学科独自の秋のお祭りと位置づけたのである。

■「国際関係学科フィールドワーク・フェスタ」3年間のあゆみ

1年目は、44点の写真(16人の学生・教員による14カ国での撮影作品)が出品された。お気に入りの写真を選び、パネルを自作して、自分たちで釘を打って展示を完成させた。学内の多くの学生や教職員から、学科の学生たちの世界各地での活躍ぶりに対する評価がまいこんだ。報告会も茶話会も盛況で、五感を使ってお互いに体験を発信し、理解する機会となった。

初回の試みが楽しく有意義であったため、2年目も実施しようという雰囲気ができた。やがて、「次に旅行に行くときは、写真展に出品するためにいい写真を撮ってきます」という反応が出始めた。このように、ただ漫然と撮りためるのではなく、だれかに見せようという意識をもって出かけることが、フィールドワークにおいては重要である。この姿勢が培われたことによって、次年度も有意義な企画につながった。

こうして、2年目は50点(28人の学生・教員による20カ国・地域での撮影作品)、3年目は74点(39人の学生・教員による25カ国・地域での撮影作品)。地域も、日本のほか、アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカ、北米、南米、オセアニアと、世界中に広がった。

フィールドワーク・フェスタ2011-2013

2011-2013年の3カ年、「旅の写真展」「旅の報告会」の両方を含む

■いくつものスピンオフ企画

毎年、学生たちが自慢の写真を持ち寄り、コンテンツの蓄積ができてくると、それを他の場面でも活用しようという着想が生まれた。オープンキャンパスの学科ブースでの写真展示と自作絵はがきプレゼント、国際交流行事ワールド・コラボ・フェスタでの写真展示と絵はがき販売、JICAなどが主催する「なんとかしなきゃ!プロジェクト」が実施したウェブ上の写真展への出品、愛・地球博記念公園夏まつりでの公開の写真展、そして、国際関係学科の学生オリジナルサイトやブログでのコンテンツとしての活用などである。学生たちが自ら作品を創るという姿勢の涵養は、映像制作ワークショップの実現へとつながり、桃山学院大学と合同での映像作品上映会の実施へと至った(南出報告参照)。

今や、全学でもっともアクティブな、コンテンツ発信型の学科となっている。教員はその仕掛けを作ることに協力したが、コンテンツを世界中から集めて来て、発信し、それを継承して選択肢を拡大してきたのは、ほかならぬ学生たちであった。

■撮影調査実習、スケッチ実習も

最近では、撮影された写真を持ち寄るだけでなく、現場での撮影指導ということも試みている。学生たちとカメラを持ってキャンパスや近隣の公園を歩き、何かひとつのテーマを決めて自由に撮影するとともに、その写真を盛り込んだ口頭発表を行う。技術指導よりも、「後日、報告の場面で役立つものを撮影しておく」という着眼点の指導が多い。「調査地に入る時と出る時に、調査地の風景を撮っておく」「看板や地図など、情報が豊富に含まれているものを撮る」「比較のために、興味深い対象とそうでない対象の両方を」「メジャーもしくはボールペンなど、尺度となるものを配置して撮影する」などである。

さらに、視覚的な記録の原点として、手描きのスケッチを活用する社会調査の実習も行っている。私はかつてアフリカで調査していた時にカメラが故障してしまい、スケッチを活用してしばし調査を続行した経験がある。社会調査においてスケッチが役に立つことを発見した機会ともなった(亀井, 2010)。その経験に根ざした授業の事例である。

■おわりに

今日では、高機能のスマートフォンやデジタルカメラが発売されており、いわば素人でもある程度の質の写真を撮ることができる。重要なポイントは、「後で人に見せるために記録する」という意識であり、それを公開して議論ができる場作りである。技術革新では解決しない「フィールドワーク・マインド」の育成を、これからも追求していきたい。

「なんとかしなきゃ!プロジェクト」ASIA Photo Gallery https://www.flickr.com/photos/nantokashinakya/sets/72157638272384603/
愛知県立大学外国語学部国際関係学科学生オリジナルサイト http://apukk.web.fc2.com/
亀井伸孝. 2010.『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』京都: 京都大学学術出版会.

[この報告要旨をPDF (2ページ) でダウンロードして読む]

[当日配布資料その1] (PDF) フィールドワーク・フェスタ 2011-2013年の3カ年のまとめ
[当日配布資料その2] (PDF) フィールドワーク・フェスタ 2013年度の開催報告


■報告要旨集で参照されている文献、ウェブサイト

■赤嶺報告
赤嶺淳編. 2011.『クジラを食べていたころ: 聞き書き 高度経済成長期の食とくらし』(グローバル社会を歩く 1). グローバル社会を歩く研究会. [総ページ数: 224ページ]
赤嶺淳編. 2012.『バナナが高かったころ: 聞き書き 高度経済成長期の食とくらし 2』(グローバル社会を歩く4). グローバル社会を歩く研究会. [総ページ数: 201ページ]
赤嶺淳監修. 阿部裕志・祖父江智壮編. 2013.『海士伝 隠岐に生きる: 聞き書き 島の宝は、ひと』(グローバル社会を歩く 5). グローバル社会を歩く研究会. [総ページ数: 161ページ]
赤嶺淳監修. 株式会社巡の環編. 2014.『海士伝2 海士人を育てる: 聞き書き 人がつながる島づくり』(グローバル社会を歩く4). グローバル社会を歩く研究会. [総ページ数: 208ページ]

■亀井報告

「なんとかしなきゃ!プロジェクト」ASIA Photo Gallery https://www.flickr.com/photos/nantokashinakya/sets/72157638272384603/
愛知県立大学外国語学部国際関係学科学生オリジナルサイト http://apukk.web.fc2.com/
亀井伸孝. 2010.『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』京都: 京都大学学術出版会.

■南出報告

南出和余・秋谷直矩. 2013.『フィールドワークと映像実践: 研究のためのビデオ撮影入門』東京: ハーベスト社.

■松田報告

松田凡. 2007. 「朝メシ前の人類学: フィールドで生まれる対話 (第1回)」『季刊民族学』(千里文化財団) 120: 75-79.
Green Map http://www.greenmap.org/greenhouse/en/about
LALIBELA: Open Green Map http://www.opengreenmap.org/greenmap/lalibela


■これからフィールドワークを学ぶ人のために(文責:亀井伸孝)

(報告要旨集p.13に掲載された内容を公開します)

【ブックガイド】

■日本文化人類学会が編んだ決定版この1冊!
日本文化人類学会監修. 鏡味治也・関根康正・橋本和也・森山工編. 2011.『フィールドワーカーズ・ハンドブック』京都: 世界思想社.

■スキルについて学ぶなら

宮内泰介. 2004.『自分で調べる技術: 市民のための調査入門』(岩波アクティブ新書) 東京: 岩波書店.
佐藤郁哉. 2006.『フィールドワーク: 書を持って街へ出よう[増訂版]』東京: 新曜社.
佐藤郁哉. 2002.『フィールドワークの技法: 問いを育てる、仮説をきたえる』東京: 新曜社.
箕浦康子編. 1999.『フィールドワークの技法と実際: マイクロ・エスノグラフィー入門』京都: ミネルヴァ書房.

■成果還元や倫理について学ぶなら

関満博. 2002.『現場主義の知的生産法』(ちくま新書) 東京: 筑摩書房.
武田丈・亀井伸孝編. 2008.『アクション別フィールドワーク入門』京都: 世界思想社.
安渓遊地・宮本常一. 2008.『調査されるという迷惑: フィールドに出る前に読んでおく本』神戸: みずのわ出版.
山路勝彦. 2006.『近代日本の海外学術調査』東京: 山川出版社.

■雑誌、シリーズ刊行物

『FIELDPLUS』(フィールドプラス) 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 (2009-)
『フィールドワーク選書』(全20巻) 京都: 臨川書店 (2013-)
『100万人のフィールドワーカーシリーズ』東京: 古今書院 (2014-)

【お役立ちウェブサイト】

日本文化人類学会 http://www.jasca.org/
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所「Fieldnet: フィールドワークする研究者の知と知をつなぐ」 http://fieldnet.aa-ken.jp/
国立民族学博物館 http://www.minpaku.ac.jp/


■公開シンポジウム報告(抜粋)

2014年7月30日
日本文化人類学会2014年度公開シンポジウム担当理事
亀井伸孝

■予算

計35万円
    日本文化人類学会より 30万円
    愛知県立大学地域連携センターより 5万円

■参加者

参加人数:約120人(関東、中部、北陸、近畿、四国、九州の各地から来場)

参加者の属性:大学教員、大学職員、研究者、大学院生、学部生、一般社会人、中学高校の教員。また、回答には含まれていなかったが、高校生たちと思われる若い世代の人たちが複数含まれていた。

■開催の様子

大学におけるフィールドワーク教育のテーマは、大いに関心を集め、熱気あふれる会場となった(下記の写真および感想参照)。質疑応答の時間を節約するために質問票を配布し、来場者が記入して質問できるようにした。推定100枚ほどの質問票が会場から寄せられた。

会場では、愛知県立大学におけるフィールドワーク教育の実践事例紹介を兼ねて、国際関係学科の「旅の写真展」を同時開催した。休憩時間に、学生たちの写真作品を鑑賞する人びとの姿があった。

公開行事という趣旨に鑑みて、手話通訳を配置した。名身連聴覚言語障害者情報文化センターから3名×4時間の手話通訳者の派遣を受け、経費は計30,000円+交通費実費であった(日本文化人類学会の会計から支出)。県下の全高校に案内状を送る際に、県立ろう学校も含めて送った立場上、バリアフリー対策は必要であると判断した。結果として、ろう者5人が参加した。「情報保障をありがとうございました」「手話通訳付の企画があれば参加したい」といった反響があり、公開行事における潜在的なニーズがあることが明らかになった。

■達成と課題

文化人類学およびフィールドワークが中等・高等教育において果たしうる役割を、多くの市民と共有することができた。学会の取り組みならびに各大学の教育の実践事例を広く紹介することに成功した。

この行事を通じて、フィールドワークを教育に取り入れることに、多くの大学や中学高校の教職員たちが関心を寄せていることが分かった。全国各地の大学におけるPBL教育の普及に伴い、このような傾向は今後とも続くものと思われる。今後のテーマ設定や開催形態、関心層の想定の参考となった。

各発表者とコメンテータが豊富な素材をもっていたため、それぞれが濃密な議論になり、来場者の満足度はきわめて高かった。一方、時間が押してしまった結果、総合討論の時間を大幅に割愛せざるをえず、このことを惜しむ感想が寄せられた。

171名収容可能の大会議室を用いたが、120人の来場を得たため、当初の予想よりも後ろの席まで用いる必要が生じた。このため、一部来場者からは「スクリーンが小さくてスライドが見にくかった」という意見が寄せられた。スクリーンを複数用いるなどの工夫が可能であるかもしれない。

一部の発表者が、日本語字幕のない映像作品を用いることを希望し、直前に発表者が文字起こしをして、原稿をろう者と手話通訳者に提供した(著作権の関係から、原稿を貸与した上で、終了後に回収)。行事で映像や音声、音楽を活用する際のバリアフリーについては、今後とも課題となるであろう。

■提出された感想など(抜粋)

【関東、大学院生】学びに直結したフィールドワークの事例がうかがえて、率直におもしろかったです。
【中部、社会人】手話通訳付の企画(文化人類)があれば参加したい。
【中部、大学教員】フィールドワークのおもしろさを再認識させていただきました。
【中部、大学職員】それぞれの先生がたのご経験をもとにされたご発表で、非常に興味深く拝聴しました。
【関東、大学院生】聞き書き、写真、映像を用いた調査のお話をうかがい、大変参考になりました。
【関東、大学教員】学生をどう外向きにしてゆくか、というのが目下の課題ですので、関心があります。
【関東、学校教員】情報保障をありがとうございました。大変よい機会となりました。
【関東、大学、中学校などにおける非常勤講師】ダイナミックな試みに多数触れることができてよかったです。中高生向けにどんなフィールドワーク教育の可能性があるかを考えたいです。
【中部、大学院生】先生がたの語り方がおもしろく、楽しい時間となりました。
【九州、大学教員】続編よろしくお願いします。
【中部、大学教員】ワークショップのような体験型のイベントなど、希望します。
【北陸、大学教員】もっと総合討論する時間があったら、よかったです。
【近畿、大学教員】私自身もPBL科目を担当しており、いろいろ示唆をいただきました。
【北陸、大学教員】[今後、どのような企画があるとよいか]人類学の教員のための映像人類学ワークショップ的なもの。
以上

開催報告の全文はこちらでご覧いただけます(PDF, 写真入り)。



矢印このページのトップへ    亀井伸孝日本語の目次へ

All Rights Reserved. (C) 2003- KAMEI Nobutaka
このウェブサイトの著作権は亀井伸孝に属します。