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亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

『手話学研究』19
(特集・手話言語学の50年)

特集企画担当: 亀井伸孝
日本手話学会
2010年10月30日

日本語 / English / Français
最終更新: 2010年10月30日

手話学研究19

今年、2010年は、手話言語学誕生50周年の記念の年に当たります。

1960年、アメリカのろう者の大学ギャローデット大学で教鞭をとっていた言語学者ウィリアム・C・ストーキー・Jr.(1919-2000)が、ろう学生たちが話す手話の会話を観察してきた経験をふまえて、"Sign Language Structure"(「手話の構造」)という論考を発表しました。でたらめな英語であると見なされがちだったろう者の手話が、英語とは異なる構造をそなえた自然言語であるということを、言語学者として世界で初めて指摘した、革命的な論文でした。

ストーキーが最初の一石を投じてから、今年でちょうど半世紀の年月が経ちました。世界と日本で取り組まれてきた研究は、この半世紀でどのような達成を見、また、どのような課題を残しているのでしょうか。そして、今後どこへ向かうのでしょうか。この特集では、2人のろう者による対談と、3本の寄稿により、日本と世界の手話言語学の半世紀の歩みを振り返りつつ、この学問の今後を展望する機会としたいと思います。

(目次より)
特集「手話言語学の50年」: 企画趣旨
特集対談: 手話言語学の50年: 日本の手話言語学はその歴史から何を学ぶべきか
手話言語研究はどうあるべきか: 捨象と抽象
理工学的手法による手話研究の事例
日本手話学の歩み: 自分史的視点からのエッセイ
『手話学研究』19 (特集・手話言語学の50年) 第36回日本手話学会大会にておひろめ (2010/10/30)

■書誌情報
■リンク
■本誌の目次
■「特集・手話研究の倫理」の詳しい目次
■ちょっと立ち読み
■関連日記(ジンルイ日記から)

#このウェブページは、「特集・手話言語学の50年」の企画担当者である亀井個人によって作られたものです。日本手話学会、同編集委員会、特集寄稿者などの見解や立場を代表するものではありません。


■書誌情報

タイトル: 『手話学研究』第19巻 (特集・手話言語学の50年)
編集・発行: 日本手話学会 (会長: 澁谷智子)
編集委員会: 坊農真弓*; 市川熹; 亀井伸孝; 菊地浩平; 黒田知宏 (* 編集委員長)
発行日: 2010年10月30日
言語: 日本語
サイズ: A4判/横組/71ページ
ISSN: 1884-3204

本誌は、書店などでは販売されておりません。関心のある方は、日本手話学会に直接お問い合わせください。


■リンク

日本手話学会

『手話学研究』

『手話学研究』バックナンバー

日本手話学会第36回大会のご案内


■本誌の目次

日本手話学会
『手話学研究』
第19巻
2010年10月30日

<巻頭言>
坊農 真弓:
論文投稿の経験…1

<大会報告>
澁谷 智子:
日本手話学会における第35回大会の位置づけ: 2009年度の大会報告…3

<特集>手話言語学の50年
亀井 伸孝
特集「手話言語学の50年」: 企画趣旨…9

森 壮也×小薗江 聡:
特集対談: 手話言語学の50年: 日本の手話言語学はその歴史から何を学ぶべきか…11

原 大介:
手話言語研究はどうあるべきか: 捨象と抽象…29

市川 熹:
理工学的手法による手話研究の事例…43

神田 和幸:
日本手話学の歩み: 自分史的視点からのエッセイ…53

<書誌紹介>
菊地 浩平:
木村大治・中村美知夫・高梨克也編『インタラクションの境界と接続: サル・人・会話研究から』…65

<献本紹介>


■「特集・手話言語学の50年」の詳しい目次

#小見出しのみ引用し、紹介しています。詳細は本誌をご覧ください。

『手話学研究』第19巻: 9-10
■〈特集記事〉特集「手話言語学の50年」: 企画趣旨[ちょっと立ち読みできます
亀井伸孝(大阪国際大学; 日本手話学会編集委員 (特集担当))

1. 1960年の「革命」
2. 手話言語学の発展
3. 手話言語学の応用と一般啓発の進展
4. 今後の50年を見すえた展望へ
文献

『手話学研究』第19巻: 11-28
■〈特集対談〉手話言語学の50年: 日本の手話言語学はその歴史から何を学ぶべきか
森 壮也(日本貿易振興機構アジア経済研究所)
×
小薗江 聡(国立障害者リハビリテーションセンター学院)

今号特集「手話言語学の50年」の一環として、日本と世界における手話言語学の半世紀の歴史を振り返り、研究の進展の現状を見据えるとともに、今後のこの分野の展望や課題等について検討する対談が企画されました。日本手話学会前会長の森壮也氏と、会員の小薗江聡氏に、縦横に語っていただきました。

【対談日時】2010年7月12日 15-17時
【対談場所】国立情報学研究所 2208会議室

1. 手話言語学との出会い: 小薗江
2. 手話言語学との出会い: 森
3. 1980 年代の手話をめぐる状況
4. アメリカの研究と日本の研究
5. 手話言語学の浸透
6. アメリカにおける手話言語学の誕生
7. ストーキー以前の手話観
8. 音声言語と書きことば
9. ストーキーとの出会い
10. ストーキーの専門とその後の発展
11. 手話の音韻論
12. 手話の母音とは何か
13. 手話の形態論と統語論
14. 手話の社会言語学
15. ろう者の意識変化と勉強の場
16. ろう者と聴者が一緒に研究を進めること
17. 手話は福祉か?言語学か?
18. 手話学会は要らない?
19. これからの手話学会と手話通訳
20. おわりに: ろう者としての使命

(対談関係スタッフ)
企画・構成: 亀井伸孝(大阪国際大学、編集委員[特集担当])、坊農真弓(国立情報学研究所、編集委員長)
収録スタッフ: 菊地浩平(国立情報学研究所)、森内康博(株式会社らくだスタジオ)
日本語翻訳: 平英司(関西学院大学)
日本語翻訳協力: 前川和美(関西学院大学)

『手話学研究』第19巻: 29-41
■〈特集記事〉手話言語研究はどうあるべきか: 捨象と抽象
原 大介(豊田工業大学)

1. はじめに
2. Stokoe の功績
 2.1. 手話も言語である
 2.2. 二重分節性と音素
 2.3. 音素は意味をもたない
 2.4. 手話言語における音素の問題
3. ストーキー以降
 3.1. 音声言語研究と手話言語研究
 3.2. 音声言語の音節
 3.3. 音声言語の母音と子音
 3.4. 捨象と抽象
 3.5. よりよい手話言語研究に向けて
4. おわりに
参考文献

『手話学研究』第19巻: 43-52
■〈特集記事〉理工学的手法による手話研究の事例
市川 熹(あきら)(早稲田大学人間科学学術院)

1. はじめに
2. 理工学的手段を活用した手話言語の性質の解明・探索
 2.1 手話データベースと手話記述法
 2.2 実時間対話言語としての手話の性質の分析
  2.2.1 実時間で内容を理解可能としている手話の性質の分析
  2.2.2 対話の円滑なやり取りを可能としている手話の性質の分析
3. 手話を扱う機器・システムの開発
 3.1 手話CG/アニメ
 3.2 手話-音声通訳システムと手話認識技術
 3.3 手話動画とテレビ電話
4. 手話電子化辞書
5. 終わりに

参考文献

『手話学研究』第19巻: 53-63
■〈特集記事〉日本手話学の歩み: 自分史的視点からのエッセイ
神田 和幸(中京大学国際教養学部)

1. はじめに
2. ストーキー博士の思い出
3. 手話学の碩学の思い出
 3.1. アメリカ東部
 3.2. アメリカ西部
 3.3. ヨーロッパ
4. 日本手話学会の歩み
5. おわりに
参考文献


■ちょっと立ち読み

#「特集「手話言語学の50年」: 企画趣旨」(亀井伸孝. 2010.『手話学研究』19: 9-10)より引用

1. 1960年の「革命」

今年、2010年は、手話言語学誕生50周年の記念の年に当たります。

1960年、アメリカのろう者の大学ギャローデット大学で教鞭をとっていた言語学者ウィリアム・C・ストーキー・Jr.(1919-2000)が、ろう学生たちが話す手話の会話を観察してきた経験をふまえて、"Sign Language Structure"(「手話の構造」)という論考を発表しました。でたらめな英語であると見なされがちだったろう者の手話が、英語とは異なる構造をそなえた自然言語であるということを、言語学者として世界で初めて指摘した、革命的な論文でした。

もっとも、パイオニアの常でしょうか、手話を音声言語と同じように分析することが当たり前でなかった当時、この試みには批判も寄せられました。しかし、やがて支持者が増え、今日の手話言語学の領域を開くルーツとなります。

2. 手話言語学の発展

ストーキーが最初の一石を投じてから、今年でちょうど半世紀の年月が経ちました。この間に、手話とろう者をめぐる学術界の状況は一変しました。

言語学的な研究としては、音韻論、形態論、統語論の各領域を中心に、語用論、社会言語学、会話分析などの関連領域が育まれてきました。

手話言語学の発展に触発を受けて、自然科学領域では、脳研究や工学的手法による手話研究などが取り組まれ、人文・社会科学では、心理学、歴史学、文化人類学、社会学などにおける関連成果が生み出されてきています。

地域的な広がりを見ても、めざましいものがあります。ストーキー自身もそうだったように、手話言語学はおもにアメリカ手話(ASL)を対象として成果を蓄積してきました。しかし、その波は、やがてヨーロッパや日本へと及び、今日ではアジア、ラテンアメリカ、アフリカ、オセアニアと、世界中の手話言語へと対象が広がっています。

世界の言語に関するデータベース「エスノローグ」には、現在130種類の手話言語名が登録されています(SIL International, on line)。データベースの改訂のたびに手話言語の数が増えており、これまで記載されていなかった各地の手話の研究が急速に進んでいることを示しています。

それらの研究活動を支えるフィールド言語学や、コーパスの構築なども、各地で取り組まれています。手話言語学の拠点としては、おもにアメリカのいくつかの大学が競いながら世界を先導してきましたが、このほかに、ドイツ、イギリス、オランダ、香港、そして近年では、ケニアやエチオピアの大学も、この領域に参入しつつあります。

3. 手話言語学の応用と一般啓発の進展

この50年で、ろう教育、言語政策などを中心に、手話をめぐる社会的な情勢は大きく変わりました。1880年の世界ろう教育会議の決議(ミラノ決議)は、ろう教育で手話使用を抑制する時代を象徴するものでしたが、2010年、バンクーバーで開かれた同会議で、この決議を取り下げる声明が発表されました。

1995年のフィンランドとウガンダにおける憲法での公用語規定を皮切りに、手話を法的に認知する国ぐにが次第に増えています。2006年の国連障害者権利条約では、手話は言語であると明記されています。

一般啓発面でも、手話に対する言語としての認知は、著しい変化を見せています。岩波書店『広辞苑』(新村出編, 2008)で、手話が言語であるとされたほか、言語学や言語処理学、歴史学、社会学、文化人類学などの事典や教科書で「手話」の項目を設け、言語の一部として紹介する例が増えてきました。国立民族学博物館の言語展示コーナーには世界の手話言語が含まれ、日本のいくつかの大学では、語学として「日本手話」が開講されるようになりました。

手話を言語として認知し、研究・教育し、その社会的な地位を守る。このことは、もちろん、さまざまな立場にある多くの人たちの尽力の成果であることは言うまでもありません。そのような全体的な変化の中で、手話を自然言語であると位置づけ、たゆまず成果を生み続けてきた手話言語学の歩みが、直接、間接に社会に寄与してきた側面を指摘することもできるでしょう。さらに今後とも、学問の成果を社会にどう還元していくか、考え続けたいと思います。

4. 今後の50年を見すえた展望へ

昨年の本誌特集「手話研究の倫理」(日本手話学会編, 2009)で議論されていたように、少数言語である手話と学術界の関わりには、いくつかの課題があります。ただし、それゆえに研究を途絶えさせるのではなく、解決を図りながら、50年後、100年後の手話とその理解のあり方を目指したいと考えています。

世界と日本で取り組まれてきた研究は、この半世紀でどのような達成を見、また、どのような課題を残しているのでしょうか。そして、今後どこへ向かうのでしょうか。この特集では、2人のろう者による対談と、3本の寄稿により、日本と世界の手話言語学の半世紀の歩みを振り返りつつ、この学問の今後を展望する機会としたいと思います。

文献
日本手話学会編 (2009).「特集・手話研究の倫理」,『手話学研究』18: 1-46.
新村出編 (2008).『広辞苑・第6版』東京: 岩波書店.
SIL International (on line). Ethnologue, Languages of the World (http://www.ethnologue.com/).

#詳細は本誌をご覧ください。


■関連日記(ジンルイ日記から)

■『手話学研究』「特集・手話言語学の50年」刊行! (2010/10/30)


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