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発表要旨
最終更新: 2008年3月16日

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関学COEワークショップ「多文化と幸せ」
2004年12月6日

「『人類学者』と『ブッシュマン』」
丸山 淳子 (京都大学)

キーワード:開発政策、先住民運動、フィールドワーク、南部アフリカ


■発表の要旨
本報告ではボツワナ最大の動物保護区におけるブッシュマンの立ち退き問題をめぐる政治論争をとりあげ、その渦中でフィールドワークを続ける研究者のもつ可能性と限界を議論した。

まずボツワナにおいて、「ブッシュマン」および、その調査をしてきた「人類学者」がどのようにとらえられてきたのかを概観した。独立以来、国民形成を国是とし、政策において民族別に異なった扱いをすることを回避してきたボツワナでは、ブッシュマンは、主流社会、すなわち国民の大半を占めるツワナ社会統合させることを目指す開発政策の対象となってきた。これに対して人類学者は、独立以前にはブッシュマンの「伝統的な生活を守る」ことに協力し、独立後、開発政策が始まると、これに積極的に貢献したり、あるいはそれに異議を唱えたりと、政策に様々な形で関与してきた。

こうした歴史をふまえたうえで、今日の動物保護区からの再定住をめぐっては、開発政策の一貫としてこれを進めた政府と、それに対して土地返還を求める運動をおこした国際的な先住民支援団体が対立していることを論じた。ブッシュマンが開発政策によって教育や医療などにアクセスし、「他の国民と同じような生活ができること」こそ望ましいとする政府の主張と、ブッシュマンには「先祖伝来の地で伝統的な生活をおくる権利がある」とする先住民支援団体の主張は、メディアを通じて国際的に広く知られ、その結果、この論争は「開発」か「伝統」かの二者択一を迫るものとなっている。そのなかで、研究者もまた、「開発派」の政府か、「伝統派」の先住民支援団体のどちらを支持するのかを問われることが多くなっていることを指摘した。

しかし、再定住地でフィールドワークを続けるなかで、ブッシュマン自身は、「開発」と「伝統」のどちらかではなく、その両方を手にしようとしていることがわかってきた。移住先で、ブッシュマンは、開発政策によって持ち込まれた生活様式を受け入れる一方で、再定住地の外側には、古くから続けてきた狩猟採集生活を可能にする原野の住まいを自発的に作り出した。そしてその両方を往還し、二つの生活様式を組み合わせることで、新しい生活を再構築していたのである。政治の表舞台で戦わされる「開発派」「伝統派」の論争からはうかがうことのできない、このようなブッシュマン自身の日常的な試みに共感し、そこに寄り添いながら、彼らの未来を共に考えていくことにこそ、研究者の重要なつとめであることを指摘した。


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