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発表要旨
最終更新: 2007年3月19日

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関学COEワークショップ「多文化と幸せ」
2004年12月6日

「参加型アプローチによるエスニック・コミュニティのエンパワーメント」
武田 丈 (関西学院大学)

キーワード:エスニック・コミュニティ、参加型アプローチ、エンパワーメント、共生


■発表の要旨
この研究発表の目的は、滞日エスニック・コミュニティ支援の現状を把握した上で、日本の地域社会における共生のための手段としての、参加型アプローチの有効性について議論することであった。

日本で生活する外国人の数は30年以上連続して増加している。特に、80年代のバブル景気・90年の入管法改正によって急激な増加したのに加え、国籍の多様化、そして家族での来日が増加している。その結果、日本の地域社会で生活する外国人が直面する福祉的ニーズや課題の解決や軽減の必要性も高まってきている。こうした地域社会の課題の軽減には、1) ニーズを抱えた個人(外国人)への個別支援、2) エスニック・コミュニティへの支援、3) 社会へのアプローチが必要であろうと考えられる。ソーシャルワークの分野では伝統的に1) の支援が中心であったが、2) や3) の支援がなければ、本当の意味で根本的な課題解決、共生社会の構築は不可能だと考えられる。

2) の現状把握のために行われた兵庫県下の3つのエスニック・コミュニティ(カトリック教会を中心とするペルー人コミュニティ、ベトナム人コミュニティ、フィリピン人コミュニティ)関する調査(武田、2002)では、共通点として、自文化活動、自助・互助活動、リーダーの重要性が確認され、エスニック・コミュニティを核とした課題解決の可能性が示唆されている。しかし、こうしたコミュニティはまだ規模が小さく、活動も制限されている。特に、オーバステイのメンバーがいるコミュニティでは、日本社会からサービスの活用が難しいことも確認された。さらに、外国人集住地域においても、リーダーシップ欠如などの理由によってコミュニティが形成されない、あるいはコミュニティにつながっていない外国人も存在し、今後こうしたコミュニティの形成支援、あるいはコミュニティ活動の側面からの支援の必要性が確認された。

なお、発表の後半では、こうしたコミュニティの形成、あるいはコミュニティにおける互助活動の促進支援として、PLA (Participatory Learning & Action) のような参加型アプローチの方法や有効性について議論をおこなった。

■参考文献
Chambers, R. (2000). 『参加型開発と国際協力:変わるのはわたしたち』(野田直人・白鳥清志監訳). 明石書店. (Original work published 1997).
プロジェクトPLA(編)(2000). 『続入門社会開発』. 国際開発ジャーナル社.
武田丈 (2002). 「エスニック・コミュニティ・ベースド・ソーシャルワーク・プラクティスの可能性:兵庫県下の3つのエスニック・コミュニティに関するケース・スタディからの提言」『関西学院大学社会学部紀要』92号、89‐101.
武田丈 (2004). 「コミュニティ・エンパワーメントのための参加型リサーチの可能性:滞日外国人コミュニティの抱える問題とその支援方法」『関西学院大学社会学部紀要』96号、223-234.
■参考サイト
CHARM (Center for Health and Rights of Migrants)
多文化共生センター


■討論の要旨(●参加者/○発表者)
<PLAとは何か>
●PLAというのは、理念か方法か。

○方法(ツール)ではなく、あくまでも理念。しかしツールが先行的に使われがちな傾向はある。

●PLAは開発の理念か。

○自分は開発分野からPLAを学んだが、いずれは日本の外国人コミュニティに適用してみたい。また、外国人エンパワーメントのために、日本人社会に適用することもできるかもしれない。多様な意見を反映させるまちづくりを目指す方法として(地域福祉と関連)。

<PLAの実践をめぐって>
●地図やカードを用いる方法がよく見られるが、PLAには他にどんなツールがあるか。

○たとえば演劇ワークショップをやって、ことばで語れないことを表現する方法がある。またビデオを作るという方法もある。

●PLAでは性年齢別のグループに分かれて議論や活動をするというが、グループ間でニーズが食い違ったとき、どの性年齢層のニーズを優先するか。

○一般に、特定の層の人たちが社会的な発言権や決定権を持つことが多いため、ワークショップでは、とにかくさまざまな層から意見を出してもらうことを基本としている。その中で、社会福祉としては、やはりニーズが高い人を優先する。ただし、既存の社会構造が簡単に変化するわけでもなく、現実には難しいこともある。

●開発側の期待を住民が予期して、予定調和的な答え方をする事例がある。あるフィールドでの話だが、ふだん習慣としてトイレを使うことを好まない住民が、開発団体にニーズを聞かれて「トイレを作ってくれ」と答えた。「参加型」とはいえ、住民のニーズがあまり外れてほしくないという範囲があらかじめあるのではないか。

○確かにそういうことはある。どのプロジェクトも、教育や保健などの専門を持って関わることが多いため、その任務から外れたニーズが出てくると困ることがある。難しい部分だ。

<コミュニティの形成とその必要性>
●コミュニティ形成にあたって重要なのは、国籍か、エスニシティか、宗教か。

○言語は大きいと思う。ペルー人の教会に、それ以外の出身のスペイン語話者が含まれている例がある。

●コミュニティを形成しない人々はいるか。

○いる。「コミュニティをつくったほうがいい」と外部から言うのは大きなお世話かも知れないが、実際その中には困っている人たちもいるわけだから、コミュニティができれば役に立つ面はあるだろう。

<マイノリティへのアプローチ>
●マジョリティの研究者は、どこまでマイノリティの中に踏み込んでよいものか。マジョリティはコミュニティの外側で、一般社会への啓発を担当するなどのポジションを取るべきではないか(=「3) 社会へのアプローチ」)。

○「2) エスニック・コミュニティへの支援」も必要と思う。ただし、マジョリティの研究者である自分は、マイノリティの一員にはなれないので、ワーカーを側面支援するという形になるだろう。たとえば自分が関わっているNGOでは、当事者に集まってもらい活動を進めている。一方で、支援と研究を両立させることの難しさもある。

<その他コメント>
●PLAが有効に機能する地域とそうでない地域があるかも知れない。農村などの小規模なコミュニティでは、むしろ有効である可能性がある。

●体験学習などを通して、マイノリティ当事者に何かの変化があったとしても、周りのマジョリティが変わらないと、全体としての社会的な効果につながらないことがある。

●言語を同じくしていても、出身地ごとに分かれてコミュニティを形成していることがある(南米のある都市の日系人などの事例)。コミュニティ形成の重要な要因は言語だけとは限らないだろう。

●マイノリティへのアプローチという問題については、観察者/被観察者の関係性やエスノグラフィーをめぐる人類学の近年の動向もふまえつつ、ネイティブ/非ネイティブという枠は取り払っていきたいと思う。


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