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亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

On va signer en Langue des Signes d'Afrique Francophone!

亀井伸孝
府中: 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
2008年7月31日

日本語 / English / Français
最終更新: 2014年8月16日

On va signer en LSAF!

/ボンジュール/!

西アフリカから中部アフリカの広い地域で話されている、ろう者たちの手話。アメリカ手話をルーツとし、音声フランス語とアフリカの文化の影響を受けて成立した「フランス語圏アフリカ手話」(Langue des Signes d'Afrique Francophone [LSAF])に関する、世界初の本格的な入門書です。著者亀井伸孝による1997年以降のアフリカ諸国における現地調査に基づいて編まれましたが、本書はとくにカメルーン東部フランス語圏で話されている手話に準拠しています。

◆ 本書の特徴
日本人の聴者学生が、カメルーンのろう者コミュニティを訪れて見聞を広めるというストーリーに沿って、LSAFの基本を学びます。

dialogue : LSAF : LSAFの会話スキットです(第1課〜第20課)。フランス語圏アフリカのろう者の自然な手話会話を採用しました。なお、会話文の表記方法としては、フランス語ラベルによる語順表示のほか、初学者に使いやすいように日本語ラベルによる語順表示、口型のフランス語表記、口型のカタカナ表記の4種類を併用しています。

dialogue : français; japonais : LSAFの会話文のすべてについて、フランス語、日本語の対訳を掲載しました。

grammaire : 世界で初めて、LSAFの文法の記載と解説を試みました。

exercices : 文法事項を実際の会話に応用するための練習問題です。

culture : アフリカの文化およびアフリカろう者の文化を、ミニコラムで学ぶことができます。

※本書は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所2008年度言語研修「フランス語圏アフリカ手話」のテキストとして編集されました。


■書誌情報・著者

タイトル: On va signer en Langue des Signes d'Afrique Francophone!

著者: 亀井伸孝
監修: エブナ・エトゥンディ・アンリ

発行: 府中: 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
発行日: 2008年7月31日
言語: LSAF, フランス語, 日本語
サイズ・形式: A4判/100ページ
非売品
ISBN 978-4-86337-012-8

著者: 亀井伸孝(かめい・のぶたか)
関西学院大学COE特任准教授を経て、現在、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員。同研究所2008年度言語研修「フランス語圏アフリカ手話」主任講師。専攻は文化人類学、アフリカ地域研究。主著に『アフリカのろう者と手話の歴史: A・J・フォスターの「王国」を訪ねて』(明石書店、2006年、2007年度国際開発学会奨励賞受賞)など。

監修: Evouna Etoundi Henri(エブナ・エトゥンディ・アンリ)
カメルーンろう者キリスト教協会会長。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所2008年度言語研修「フランス語圏アフリカ手話」外国人講師。

(著者・監修者の肩書きは発行日当時のものです)


■リンク

東京外国語大学
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
言語研修公式ページ
言語研修「フランス語圏アフリカ手話 (LSAF)」
亀井伸孝の研究室
『アフリカのろう者と手話の歴史: A・J・フォスターの「王国」を訪ねて』


■Préface はじめに

本書は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所2008年度言語研修「フランス語圏アフリカ手話(Langue des Signes d'Afrique Francophone [LSAF])」のテキストとして編集されました。

アジアやアフリカの諸言語を取り上げて100〜150時間の集中講義を行う本研究所の言語研修は、1967年に始まって以来、2007年までに計40回開催されました(試行期間を含み、不開催の1969年を含まない)。2007年までに教授されたのべ108種類の言語はすべて音声言語でしたが、2008年度に本事業として初めて、ろう者が話す手話言語を取り上げることとなりました。その最初の手話言語が、本書でご紹介する「フランス語圏アフリカ手話」です。

大西洋を越えてアフリカに伝播したアメリカ手話をルーツとし、音声フランス語の影響を受けてアフリカで成立したこの手話は、西・中部アフリカのフランス語圏諸国のろう者の間で広く用いられている、アフリカを代表する手話言語のひとつです。

この研修では、フランス語圏アフリカ手話の学習を通して、その語学力を身につけるほか、文化的・歴史的背景をも含めてアフリカのろう者社会への理解を深めることをねらいとしています。本書を手に取るみなさんは、フランス語圏アフリカ手話の言語世界にふれるとともに、アフリカのろう者の文化と歴史の魅力にも出会うことでしょう。こうした理解に根ざして、言語的マイノリティであるろう者のことを常に念頭に置きながら、研究や教育、国際交流などのさまざまな分野で、手話を使用言語として活躍する人材となっていただくことを願ってやみません。

このテキストでは、日本人の聴者の学生である淳さんが、カメルーンのろう者の教員であるシャルルさんを訪ね、手話を学びながらアフリカのろう者の生活や文化を見聞するというストーリーに沿って、LSAFの初歩を学べるようになっています。手話言語と同時に、アフリカの香りやろう者たちの暮らしぶりを感じとっていただければと思います。

また、この言語研修のために、フランス語圏アフリカ手話のDVDを作成しました。DVDには、日仏二言語からこの手話の動画を引くことができる辞典のほか、本書に含められた各課の会話スキット、あいさつなどの会話表現、文法、自然な会話などが収録されています。ろう者の生きた手話を学ぶために、ぜひDVD手話動画辞典・教材を積極的に活用してください。

では、始めましょう。
On va signer en Langue des Signes d'Afrique Francophone!
(フランス語圏アフリカ手話で話そう!)

著者 亀井伸孝
2008年7月


■Table des matières 目次

Préface  ………………………… 1
はじめに

Table des matières  ………………………… 2
目次

Terminologie  ………………………… 5
用語

Entrée  ………………………… 6
手話会話のマナー: とりわけ初めて手話言語を学ぶ方がたへ

Qu'est-ce que la Langue des Signes d'Afrique Francophone (LSAF)?  ………………………… 8
フランス語圏アフリカ手話とは?

Matériaux pédagogiques  ………………………… 10
教材と授業の進め方

Présentation de l'édition  ………………………… 11
凡例: 本書の使い方

Leçon 0 : Alphabet manuel et nombre  ………………………… 14
第0課 指文字と数

Leçon 1 : "Bonjour!"  ………………………… 16
第1課「こんにちは!」
# salut(あいさつ)

Leçon 2 : "Je m'appelle Jun."  ………………………… 20
第2課「私の名前は淳です」
# alphabet manuel(指文字)

Leçon 3 : "Je suis sourd."  ………………………… 24
第3課「私はろう者です」
# S+V, S+A, oui/non(主語+動詞、主語+属詞、はい/いいえ疑問文)

Leçon 4 : "Il y a beaucoup de fruits."  ………………………… 28
第4課「果物がたくさんあります」
# Il y a / Il n'y a pas(ある/ない)

Leçon 5 : "Les Camerounais mangent le ndolé."  ………………………… 32
第5課「カメルーン人はンドレを食べます」
# S+V+COD(主語+動詞+直接目的補語)

Leçon 6 : "Je ne bois pas de bière."  ………………………… 36
第6課「私はビールを飲みません」
# négation(否定文)

Leçon 7 : "Qui est cet homme?"  ………………………… 40
第7課「この人はだれですか?」
# impératif, qui(命令文、だれ)

Leçon 8 : "Qu'est-ce que ton programme?"  ………………………… 44
第8課「君の予定は何ですか?」
# que(何)

Leçon 9 : "Où pars-tu?"  ………………………… 48
第9課「君はどこに行くの?」
# où, comment(どこ、どのように)

Leçon 10 : "Quand es-tu arrivé au Cameroun?"  ………………………… 52
第10課「君はいつカメルーンに着いたの?」
# quand(いつ)

Leçon 11 : "Pourquoi est-ce que tu rentres?"  ………………………… 56
第11課「君はなぜ帰るの?」
# pourquoi, quelle heure(なぜ、何時)

Leçon 12 : "Ça fait combien?"  ………………………… 60
第12課「それ、いくらですか?」
# combien, quel âge(いくら/いくつ、何歳)

Leçon 13 : "J'ai visité le Japon."  ………………………… 64
第13課「私は日本に行きました」
# temps(時制)

Leçon 14 : "Je veux apprendre la langue des signes."  ………………………… 68
第14課「私は手話を学びたい」
# verbe(動詞)

Leçon 15 : "Donne-moi ton adresse postale."  ………………………… 72
第15課「君の住所をください」
# S+V+COD+COI(主語+動詞+直接目的補語+間接目的補語)

Leçon 16 : "Je trouve ce pagne rouge très beau."  ………………………… 76
第16課「この赤い布はとてもきれいだと思う」
# S+V+COD+A, lequel, comparatif(主語+動詞+直接目的補語+属詞、どちら、比較級)

Leçon 17 : "Vous chantez très bien!"  ………………………… 80
第17課「みなさん、歌がお上手ですね」
# adverbe(副詞)

Leçon 18 : "Les parents dont les enfants sont sourds viennent à l'école."  ………………………… 84
第18課「ろう児をもつ親たちが学校に来ています」
# pronom relatif(関係代名詞)

Leçon 19 : "Si tu me donnes le message, je te réponds tout de suite."  ………………………… 88
第19課「メールをくれたらすぐに返事するよ」
# proposition(節)

Leçon 20 : "Ma sœur m'a dit qu'elle était occupée."  ………………………… 92
第20課「姉は忙しいと言っていました」
# discours(話法)

Référence  ………………………… 96
文献

Remerciements  ………………………… 97
謝辞

Appendices  ………………………… 98
付録


■Qu'est-ce que la Langue des Signes d'Afrique Francophone (LSAF)? フランス語圏アフリカ手話とは?

「フランス語圏アフリカ手話」は、西・中部アフリカのフランス語圏の国ぐにのろう者たちの間で広く話されている手話言語です。

西・中部アフリカでは、1950年代からろう教育事業を通じてアメリカ手話が伝播し始めましたが、それはやがて各地で変容し、英語圏諸国ではガーナ手話やナイジェリア手話を生みました。一方、1970年代からろう教育が普及し始めたフランス語圏諸国では、アメリカ手話に音声フランス語の特徴が加わった新しい手話言語が生まれ、ろう者たちによる教育事業の中で普及し、今日ではこの広い地域のろう者たちの間で日常的に用いられています。本研修で取り上げる「フランス語圏アフリカ手話」とは、このアメリカ手話と音声フランス語の言語接触の中で成立した、アフリカ生まれの比較的新しい手話言語です。

このような経緯から、フランス語圏アフリカ手話は、アメリカ手話との間に多くの共通語彙をもっています。一方で、フランス語の口型(口の形や動き)、つづり、語順を取り入れるなど、アメリカ手話には見られない特徴もさまざまにそなえています。また、食文化関連の語彙など、アフリカ固有の手話単語が数多く含まれていることも特徴のひとつです。

■Nom de la langue 言語名について

アメリカ手話と音声フランス語の言語接触の中で生まれたこの手話言語については、これまで「アメリカ手話」(Ethnologue)、「アメリカ手話をフランス語の語順で話している」(Lane et al. 1996)などと断片的に記されてきましたが、固有名が与えられていませんでした。

西アフリカのベナン共和国でろう者たちが編集した手話辞典が、この言語に関する唯一のまとまった文献です。そこでは「フランス語圏アフリカのろう者の手話(Le langage des signes du sourd Africain Francophone)」と呼ばれています(Tamomo 1994)。これは確かに正確な呼び方ですが、固有の言語名として用いるには長過ぎるのが難点です。

この言語研修に先立つ調査の中で、現地のろう者たちとも協議の上、「フランス語圏アフリカ手話(Langue des Signes d'Afrique Francophone [LSAF])」という言語名を提唱することとしました。この手話言語の普及と確立に尽力したアフリカのろう者牧師 Tamomo らの精神を受け継いだ名称として、本研修ではこの言語名を用いています。

なお、この言語は西・中部アフリカ諸国に広く分布し、各地のろう者たちの間で話されていますが、当然その中には地域による違い(方言)が見られます。本研修で学ぶのは「その中のカメルーン方言である」ということを念頭に置いてください。

また、アルジェリア、ジブチ、マダガスカルなど、フランス語が話されていてもこの手話言語が話されていないと考えられる地域もあります。この手話の分布が、音声フランス語の分布と完全に一致しているわけではないことにもご留意ください。

亀井伸孝. 2006.『アフリカのろう者と手話の歴史: A・J・フォスターの「王国」を訪ねて』東京: 明石書店.


■Référence 文献

■欧文文献
Christian Mission for the Deaf. 1956-2007. Silent Witness; Deaf Witness.
Christian Mission for the Deaf. CMD Website.
Institute of German Sign Language and Communication of the Deaf, University of Hamburg. International Bibliography of Sign Language.
Kamei, Nobutaka. 2006. The birth of Langue des Signes Franco-Africaine: Creole ASL in West and Central French-speaking Africa. In: Online conference paper of Languages and Education in Africa Conference (LEA2006). Oslo: University of Oslo.
Lane, Harlan, Robert J. Hoffmeister & Benjamin Bahan. 1996. A journey into the Deaf-world. San Diego: Dawn Sign Press.
SIL International. Ethnologue: Languages of the world.
Tamomo, Serge. 1994. Le langage des signes du sourd Africain Francophone. Cotonou, Bénin: PEFISS.
Titus, Marius Rock. 1994. Better education for Deaf people in French-speaking Africa. In: Erting, Carol J., Robert C. Johnson, Dorothy L. Smith & Bruce D. Snider eds. The Deaf way. Washington, DC: Gallaudet University Press. 800-804.

■日本語文献
亀井伸孝. 2004.「アフリカの手話言語」『アフリカ研究』(日本アフリカ学会) 64 (2004.3): 43-64.
亀井伸孝. 2006.『アフリカのろう者と手話の歴史: A・J・フォスターの「王国」を訪ねて』東京: 明石書店.
亀井伸孝. 2007.「フランス語圏のアメリカ手話: 西・中部アフリカの接触手話言語 (上)」『月刊言語』36(9) (2007.9): 68-74.
亀井伸孝. 2007.「フランス語圏のアメリカ手話: 西・中部アフリカの接触手話言語 (下)」『月刊言語』36(10) (2007.10): 90-97.
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所. 1979.『アジア・アフリカ言語調査票(下)』東京: 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所.


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