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亀井伸孝の研究室
亀井伸孝

『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』

亀井伸孝
京都: 京都大学学術出版会
2010年2月20日

日本語 / English / Français
最終更新: 2016年3月21日

森の小さな〈ハンター〉たち

教育のない社会で育つ子どもたちとは――。

狩猟採集社会では、おとなが子どもたちに対して、熱心に教育や訓練をする光景が見られない。にもかかわらず、この放任的な環境の中で、子どもたちはおのずと狩猟採集の技術と知識を身につけていく。なぜ、そんなことが可能なのだろうか。

ひとりの人類学者が、中部アフリカの熱帯雨林に暮らすピグミー系狩猟採集民バカの集落に住み込んで、子どもたちの集団に弟子入りした。森の細道を足早に駆け回る子どもたちの後を追いかけ、いっしょに遊び、狩猟採集をしながら、森に暮らす子どもたちの文化を学んだ。

本書は、子どもたちの集団の中にうめこまれた学びの姿を描いた「子どもが主役のエスノグラフィー(民族誌)」である。それは、アフリカの密林の中をさっそうと駆け回る世界一かっこいい子どもたちと、この小さな狩猟採集民に弟子入りして森の歩き方を教えてもらった世界一かっこわるい人類学者の、一年半におよぶ出会いの記録でもある。

◆ピグミー(またはピグミー系狩猟採集民)【Pygmy; Pygmies】
中部アフリカの熱帯雨林域に暮らし、狩猟採集をおもな生業とする、バカ、アカ、ムブティ、エフェなどの諸民族の総称。平均身長が低く、伝統的な歌と踊りの文化をもつなどの共通した特徴が見られるが、「ピグミー」という単一の民族はない。また、言語も民族ごとに異なっている。

◆ピグミー系狩猟採集民バカ【Baka】
カメルーン共和国、コンゴ共和国、ガボン共和国にまたがる地域で生活する、ピグミー系狩猟採集民の一集団。伝統的な狩猟採集活動を行う一方、近年では焼畑農耕をもあわせて営んでいる。

(目次より)
人類学者、森の子どもたちに弟子入りする
狩猟採集民の子どもたち
子どもたちの仲間に入る
森の遊びとおもちゃの文化
小さな狩猟採集民
子どもたちのコスモロジー
子どもたちをとりまく時代
狩猟採集社会における子どもの社会化
狩猟採集民の子どもたちの未来
フィールドで絵を描こう ほか
圧倒的なリアリティで迫る、森の子どものフィールドワーク
[推薦]箕浦康子(お茶の水女子大学名誉教授)

本書は、カメルーン共和国東部の森の狩猟採集民バカ・ピグミーの子どものなかでの1年半の記録である。

まず、近代的諸制度導入前の社会で子どもはどう生きていたかをトータルに捉えている点が、専門分化し特定の視角から子どもを見がちな研究への反省をせまる。また、日本の子どもたちとは正反対の社会状況で生きるバカの子どもたちの記録は、文化や時代が子どもの生活をいかに変えたかを逆照射する。子どもの発達や社会化に関心のある心理学、教育学、社会学、社会福祉学、学校教育関係者、保育関係者、必読の書である。

本書は、子どもを相手とするフィールドワーク研究としても出色である。一人前の男性が子どもたちに仲間として受け入れられていくプロセスやスケッチを描くことを通じて形成されるラポール、スケッチ自体がバカ社会の物質文明の巧みな記録になっている点などは、従来の研究書にない特色で、フィールドワークを研究手法としている人にも一読を勧めたい。

青山学院女子短期大学2016年度入学試験「国語」で出題 (2016/01-02ころ)
アフリカ日本協議会の機関誌で「アフリカ子ども学」特集 (2011/01)
日本アフリカ学会『アフリカ研究』で書評 (2010/12)
国際開発学会『国際開発研究』で書評 (2010/11)
東京で公開書評会開催 (2010/09/09, 渋谷) >> 詳細はアフリカ日本協議会のページをご覧ください
『図書新聞』書評で紹介 (2010/09/04)
日本野外教育学会で招待講演 (2010/06/19)
NPO法人アフリック・アフリカのウェブサイトで紹介 (2010/05/03)
立命館大学g-COE「生存学」ウェブサイトで紹介 (2010/03)
『熊本日日新聞』書評欄に野田正彰氏による長文の論評 (2010/04/04朝刊)
『週刊朝日』書評欄で紹介 (2010/04/09増大号)
『読売新聞』日曜書評欄で紹介 (2010/03/14)
『森の小さな〈ハンター〉たち』刊行 (2010/02/20)

※本のちらしをご自由にダウンロードください → [おもて] [うら] (PDF)

■書誌情報・著者
■リンク
■書評・報道
■ちょっと立ち読み
■本書に登場する思想家たち
■もくじ
 [はじめに] [第1章] [第2章] [第3章] [第4章] [第5章] [第6章] [第7章] [補論] [おわりに]
■図/写真一覧
■本書への補足
■読者別・本書のおすすめの使い方
■関連日記(ジンルイ日記から)


■書誌情報・著者

タイトル: 『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』
著者: 亀井伸孝
発行: 京都: 京都大学学術出版会
発行日: 2010年2月20日
言語: 日本語
定価: 3,400円 (税別)
サイズ・形式: A5上製・306ページ
ISBN 978-4-87698-782-5

著者: 亀井伸孝(かめい・のぶたか)
1971年、神奈川県生まれ。京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了、理学博士。日本学術振興会特別研究員、関西学院大学社会学研究科COE特任准教授を経て、現在、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究員。専門は文化人類学・アフリカ地域研究。

単著に、『アフリカのろう者と手話の歴史: A・J・フォスターの「王国」を訪ねて』(明石書店、2006年、2007年度国際開発学会奨励賞受賞)、『手話の世界を訪ねよう』(岩波ジュニア新書、2009年)、On va signer en Langue des Signes d'Afrique Francophone!(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、2008年)。編著に、『遊びの人類学ことはじめ: フィールドで出会った〈子ども〉たち』(昭和堂、2009年)、『アクション別フィールドワーク入門』(武田丈と共編、世界思想社、2008年)。共著に、『森と人の共存世界』(市川光雄・佐藤弘明編、京都大学学術出版会、2001年)、Hunter-gatherer childhoods: Evolutionary, developmental & cultural perspectives(Barry S. Hewlett and Michael E. Lamb編、Transaction Publishers、2005年)、『手話でいこう: ろう者の言い分 聴者のホンネ』(秋山なみと共著、ミネルヴァ書房、2004年)、『文化人類学事典』(日本文化人類学会編、丸善、2009年)ほか。

(著者の肩書きは発行日当時のものです)


■リンク

東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所

京都大学学術出版会

京都大学学術出版会『森の小さな〈ハンター〉たち』

Amazonの本書のページ

カメルーン・フィールド・ステーション(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

[関連書] 『遊びの人類学ことはじめ: フィールドで出会った〈子ども〉たち』(亀井伸孝編, 昭和堂, 2009年)

[関連書] 『体験取材! 世界の国ぐに (42) カメルーン』(渡辺一夫著, 亀井伸孝監修, ポプラ社, 2009年)

[関連書] 『森と人の共存世界 (講座・生態人類学 2)』(市川光雄・佐藤弘明編, 京都大学学術出版会, 2001年)

[関連書] 『森棲みの生態誌: アフリカ熱帯林の人・自然・歴史 I』(木村大治・北西功一編, 京都大学学術出版会, 2010年)

[関連書] 『森棲みの社会誌: アフリカ熱帯林の人・自然・歴史 II』(木村大治・北西功一編, 京都大学学術出版会, 2010年)

[関連インタビュー] 「研究者インタビュー 第13回 亀井伸孝氏」(2007年11月21日, 政策研究大学院大学 (GRIPS) 開発フォーラムウェブサイト「アフリカの森」)
※狩猟採集民調査の様子について、紹介しています。

[関連行事] アフリカ日本協議会公開インタビュー「『森の小さな〈ハンター〉たち』を手がかりに「アフリカ子ども学」を考える」(2010年9月9日, 東京都渋谷区)


■書評・報道

『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』をご紹介くださりありがとうございます。著作権の関係上、全文の掲載はできませんが、一部をご紹介することで著者からの謝意に代えさせていただきます。また、すべての書評などをカバーできておりませんことにつきご容赦ください。

■『アフリカ NOW』90 (2011/01)
特集「アフリカ子ども学の試み」

以下のふたつの記事を寄稿しました。

■亀井伸孝.「『アフリカ子ども学』の構想」(同特集3ページ).

(掲載準備中)

■亀井伸孝.「亀井伸孝さんが語る: 自著『森の小さな〈ハンター〉たち』を手がかりにアフリカ子ども学を考える」(同特集4-10ページ).

(…)アフリカの子どもたちについて学ぶことには、三つの方向性があると考えています。一つめは「人類進化へのアプローチ」という方向性です。私がこの本の中で主題として掲げていたのは、人類進化に関わるテーマでした。人間はどうしてこのような生き物になったのかということを考えるとき、近代的教育を受けることは必ずしも普遍的ではないことに気付くでしょう。いくつかの国ですべての子どもたちが教育の対象になったのは、ようやく20世紀に入ってからのことで、しかもすべての国ではありません。近代的教育がまだ普及してない社会が少なくないアフリカにおいて、学校が必ずしも大きな権威を持っていない地域の子どもたちの姿を学ぶことは、人間がもともと持っていた姿を探るための参考になります。こうした社会で子どもたちが何を覚え、学び、育っていくのかを知ることは、生態人類学や心理学が学習や教育に関わる問題を考えるときの参考にもなるでしょう。

二つめは「人間の文化の多様性と学習、成長」という方向性で、文化人類学や民族学に関わることです。アフリカには本当に、さまざまな暮らしぶりをしている人たちがいます。私自身は狩猟採集民の調査を行いましたが、焼畑農耕をしている人たちもいれば、牛やラクダを飼って遊牧しながら暮らしている人たちもいれば、あるいは年がら年中、船を出して海に乗り出していく漁労民、大きな湖で漁労生活を営んでいる人たちもいます。さらには、近代化するアフリカ社会の都市のスラムで暮らして育つ子どもたちもいるというように、アフリカにはさまざまな生業に基づく多様性が存在しています。「アフリカ」と一言ではくくれない、多様な育ち方や環境の中で学び育つ子どもたちがいること自体について広く学び、似ているところや違うところを考えていくことは、文化的多様性を反映した子どもの姿を知るためには、とても意義があることです。人間の文化の多様性について学ぶということは、一つめに提起した何百万年におよぶ人類進化という発想とは違い、同時代のアフリカの実像を知るという方向性での研究になるでしょう。

三つめは「アフリカ理解と開発」という方向性、これもやはり同時代に向き合ったテーマです。今のアフリカの子どもたちがどういう暮らしをしていて、将来に向けて保健や教育などの問題をどのように考えていったらよいのかというもので、国際開発研究やアフリカ地域研究などの分野に対しても、さまざまな提言ができます。外部の私たちが同時代の子どもたちと向き合って、子どもたちが何か問題を抱えているとするならば、この子どもたちの文化に即した適切な支援とはどのようなものだろうと考えるときに、子どもの文化を学ぶとことは重要な手がかりになるでしょう。

「人類進化」「人間の文化の多様性」「アフリカ理解と開発」という三つの方向性を提示しました。それぞれ議論の蓄積や方向性は違いますが、並立可能な三つの柱になると思いますし、いずれにしても子どもたちを主役に位置付けた研究が求められているという点が重要なポイントになります。(…)

『アフリカ NOW』(アフリカ日本協議会) 90 (「アフリカ子ども学」特集).
■『文化人類学』xx (xxxx/xx)
亀井伸孝『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』

(掲載準備中)

高田明(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授)

■『アフリカ研究』77 (2010/12)
亀井伸孝著『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』

(掲載準備中)

稲泉博己(東京農業大学准教授)

稲泉博己. 2010.「亀井伸孝著『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』」『アフリカ研究』(日本アフリカ学会) 77 (2010/12): 72-75.

■『国際開発研究』19(2) (2010/11)
亀井伸孝『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』

(掲載準備中)

山田肖子(名古屋大学大学院国際開発研究科准教授)

山田肖子. 2010.「亀井伸孝『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』」『国際開発研究』(国際開発学会) 19(2) (2010/11): 133-134.

■『図書新聞』(2010/09/04) 図書新聞20100904
「子どもが主役」のユニークな民族誌: 「子どもの目線」の社会モデルを提唱する

本書は中部アフリカ、カメルーン共和国東南部の熱帯雨林に暮らすピグミー系狩猟採集民バカのもとで、著者が一年半にわたって現地の子どもたちと生活と行動をともにして記述した「子どもが主役」のユニークな民族誌である。子どもを、しつけ、育児、社化そして教育の対象としてとらえるおとな目線からの脱却を企図し、子ども集団に参与観察して、子どものまなざしに寄り添いながらその生活世界を紹介しようという試みである。

かつて柳田國男は『こども風土記』において「いわゆる児童文化は孤立した別個の文化ではない」と主張し、おとな文化への従属性を示唆したが、本書は子どもの主体的な文化創造力の側面に強い光を当て、「子どもの目線」の社会モデルを提唱する。近年の人類学、社会学では、ジェンダー、サバルタン、障がい研究など、社会の多様な声に射程を広げてきたが、「子ども人類学」「子ども社会学」などの子ども指向の学術研究は最近ようやく動き出した観があり、本書はその突破口を開く成果のひとつとなろう。

著者の調査によれば、バカの子どもたちの遊びは、85種類、269事例の豊富な内容が確認され、それらがゆったりした時間を過ごす子どもたちの愛らしい写真や著者の巧みなスケッチで詳細に紹介されている。(…)ほほえましい遊びの光景が次々と読者を引きつけつつ、遊びを通して自発的に身につけていく生活知識(生業活動、性別分業活動など)の実態が示される。

特に遊びと生業活動(狩猟採集)の中間にある活動群に、子どもたちが多くの時間を費やしていることが明らかにされ、おとなも含めた狩猟採集の遊戯的性格が示される。「労働」と「余暇」(「遊び」)という近代で二項対立的に認識される現象が、実は本来渾然一体となった、人間に普遍的な生の営みであったのではないかということを、あらためて思い起こさせてくれる部分でもある。(…)

近代化そしてグローバル化に伴う画一的な学校制度が地球の隅々に及びつつある事実は否めないが、本書はこのグローバルな制度といえども個別の地域文化を無視できぬ側面を提示してくれる。(…)

最後に一言。もともと霊長類学出身の著者は日本、アメリカ、アフリカのさまざまな手話に通じ、本書では人文・社会科学教育・調査法におけるスケッチの効用を説くなど、視覚的な手段を用いた非言語コミュニケーションを駆使する資質に長けている。それは子どもたちとのコミュニケーションにもずいぶん役立ったであろう。

富沢寿勇(静岡県立大学教授、文化人類学)

『図書新聞』2980号 (2010年9月4日). p.5.

図書新聞バックナンバーページ(第2980号, 2010年09月04日 土曜日)

■NPO法人アフリック・アフリカのウェブサイト (2010/05/03)
特定非営利活動法人アフリック・アフリカ
「おすすめアフリカ本」

アフリックの会員が自信を持ってお勧めする、本や映画のコーナーです。アフリカの都市を紹介した本や、高校生にも読みやすい野生動物保護関連の本などを紹介しています。

アフリカの文化や社会を学ぶ本
『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』亀井伸孝著

若い感性で包み隠さずフィールドの現状を描いているこの本に、大いにシンパシーがわいた。しかし、それだけではない。著者とこの本には、他の人類学者や本にはみられない特徴がある。それは、エンターテイナーとしての心意気である。(…)

学術書を豊富なエピソードと手書きのイラスト、そしてユーモアをまじえて読みやすくし、読者にしっかり楽しんでもらおうという姿勢が貫かれているのだ。著者の心配りによって出来上がった心やすきこの本を、研究者にとどまらず、すべての人々におすすめしたい。

[全文を読む]

服部志帆(日本学術振興会特別研究員, 特定非営利活動法人アフリック・アフリカ理事)

[関連リンク] 特定非営利活動法人アフリック・アフリカ

■立命館大学g-COE「生存学」ウェブサイト (2010/03)
アフリカの子ども
【参考図書】
森の小さな〈ハンター〉たち 狩猟採集民の子どもの民族誌

10億を超えたアフリカの人口の過半数は15歳以下、アフリカの子どもに関わる報告やニュースがもっともっと紹介されてもいいのではと感じています。そうした中、2006年に「アフリカのろう者と手話の歴史」を書いた亀井伸孝さんが、「森の小さな〈ハンター〉たち 狩猟採集民の子どもの民族誌」という興味深い本を出しました。

[全文を読む]

斉藤龍一郎((特活)アフリカ日本協議会事務局長)

[関連リンク] 立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点 arsvi.com

■『熊本日日新聞』(2010/04/04) 熊本日日新聞20100404
「森の小さな〈ハンター〉たち」亀井伸孝著
「教育とは何か、遊びとは何か」

教育とは何か。遊びとは何か。働くとはどういうことなのか。何のために働くのか。遊び、教育を受ける、労働。それぞれ峻別できるものなのか。(…)

この様な私たちの思い込みを問い直すために、異なる社会、とりわけ文明以前の社会で人間はどのように成長し、暮らしているか、知っておきたい。(…)私たちの身体的・行動的特徴は狩猟採集生活から造られたものと考えられている。その人類の基礎である社会で、どのように遊びや文化は伝えられているか。

中部アフリカの熱帯雨林に、侵食してくる農耕民と接して暮らす狩猟採集民バカのところへ、若い人類学者は1年半住み込み、子どもたちの遊びを詳細に観察記録する。かってC・ターンブルの『森の民』や市川光雄の『森の狩猟民』で報告されていた生活が、子どもにしぼりこんで述べられている。(…)

本書を読んでいくと、私たちの「教育」なるものが、狩猟採集民として生得的にそなわっている人間性にいかに反しているか、考えこまされるだろう。年齢の違う子どもたちの集団は、そのまま年齢も能力も多様な大人たちの集団につながっており、遊びは生業と行きつもどりつしていることに気付かされるだろう。

野田正彰(関西学院大学教授、精神科医)

「野田正彰が読む」『熊本日日新聞』「読書」2010年4月4日 (日). p.8.

■『週刊朝日』(2010/04/09) 週刊朝日20100409
『森の小さな〈ハンター〉たち』亀井伸孝

本書に活写された子どもたちの様子は、本来的な子どもの学びの姿とも言え、それが現代教育に投げかけるものも大きいだろう。

真の研究が、実にリアルで、反骨心に溢れ、権威主義とはかけ離れたものであることを思い出させてくれる本であり、また、若い日本人が、苦労を重ねつつも様々な工夫で現地の子どもたちに馴染んでゆく様は、読み物としても抜群に面白い。

土屋敦

「話題の新刊」『週刊朝日』2010年4月9日増大号, p.142.

■『読売新聞』(2010/03/14)
『森の小さな〈ハンター〉たち』亀井伸孝著

1年半生活を共にした人類学者による民族誌は、翻って「日本の子どもたちは幸福か」との問いを抱かせる。バカの子どもたちの笑顔がまぶしい。

[全文を読む]

『読売新聞』「本: よみうり堂」2010年3月14日 (日) 朝刊. p.14.


■ちょっと立ち読み やり猟の少年たち

「はじめに――人類学者、森の子どもたちに弟子入りする」

バーバ(8歳)「ノブウ、ドモ!」(ノブウ、来い)
ノエリ(6歳)「ノブウ、ドモ・ドモ!」(ノブウ、来い来い)
ノブウ(私=26歳)「バシカ・ビセケ」(ちょっと待ってえな…)

二人の少年に率いられ、ひよわな人類学者は息をきらしながら後を追いかける。密林の小道に横たわる倒木やからまったつるをぴょいぴょいと飛び越え、垂れ下がる枝の下をひょいとくぐって先へ進む「小さな先輩たち」。森の中では背が低い子どもの方がぜったい有利だよなあ、とつぶやきながら、図体のでかい「後輩」の私は、枝をかきわけながら後をついていく。

バーバ「ノブウ、アカ!」(どこだ)
ノエリ「ノブウ、アカ・アカ!」(どこだどこだ)
ノブウ「…」(ハア、ハア)

向こうはちょっと先で休んでこちらを見やりながら、ついでにパパイヤの実を見つけたり、倒木に生えるキノコなどを集めたりしている。採った物をくるくるっと葉っぱでくるめば、またたく間に今日の成果である包みができる。私が追いついたら、またもや走り出す少年たち。たのむ、待ってくれ…。

ここは、中部アフリカ、カメルーン共和国東南部の熱帯雨林である。昼でも薄暗い森の中を、やりと弓矢と小かごをたずさえ、犬を連れてかけ回るピグミー系狩猟採集民バカの子どもたち。私はこの地域で過ごした一年半の間、この少年少女たちと日がな生活と行動をともにしながら、森の歩き方をひとつずつ教えてもらった。その暮らしを通して、おとなの文化や社会とは異なる、子どもたちの森の生活世界が少しずつ見えてきた。

本書は、とくに以下の点を念頭に置いて書かれた、森の子どもたちのエスノグラフィー(民族誌)である。

ひとつ目は、子どもたちの目線で森と暮らしを見ることである。自然環境の中で生活する人びとの営みについては、これまでも先人たちによって多くの民族誌が記されてきた。この人と自然の関わりを、すべて子どもたちのまなざしでとらえ直し、「子どもが主役の民族誌」を記すことを本書は試みた。それは、おとなのまなざしで文化、社会、環境、そして子どもを見ることに慣れている私たちに、新しい視角をもたらしてくれるであろう。

ふたつ目は、子どもたちが創りだす文化を学ぶことである。「子どもはおとなに教え導かれる存在である」という前提が、子どもたちがそなえている多くの可能性や潜在能力を見えにくくしてきたのではないだろうか。毎日、子ども集団に参与観察調査をすることを通して、私は子どもたちの自律的に文化を創造する能力に出会うことができた。それを、本書ではあますことなく紹介したいと思う。

三つ目は、子どもたちの営みが、外部であるおとなたちの社会や制度とどのようにつながっているのかを見すえることである。子どもたちの生活世界は、あるていど自律的でありながらも、外部世界と無関係ではなく、さまざまな影響を受けている。その関わりを見ながら、子ども文化の自律性とそれが置かれている位置についても検討したい。

本書は、アフリカの密林の中をさっそうと駆け回る世界一かっこいい子どもたちと、この小さな狩猟採集民に弟子入りして森の歩き方を教えてもらった世界一かっこわるい人類学者の、一年半におよぶ出会いの記録である。

→ 続きは本書で


■本書に登場する思想家たち

本書は、森の中を駆け回って遊ぶ子どもたちの、文字通り「児戯のごとき活動」の数かずをあつかっています。しかし、それらの活動をまじめに受け止めるためには、たいへん難しい理屈をも必要とします。子どもたちの楽しげな活動と暮らしぶりを分析するために、本書に友情出演してくださった、古今東西の思想家たちをご紹介します(順不同、敬称略)。

C. M. ターンブル、原ひろ子、S. バウシェ、原子令三、E. R. サーヴィス、伊谷純一郎、R. カイヨワ、青柳まちこ、G. マードック、プラトン、B. サットン=スミス、M. サーリンズ、J. ホイジンガ、J. オルテガ・イ・ガセー、M. チクセントミハイ、D. スペルベル、J. レイヴ、E. ウェンガー、K. ポランニー、K. マルクス、M. フーコー、箕浦康子、E. B. タイラー、C. ギアツ、J. アンリオ、P. E. ウィリス、C. レヴィ=ストロース


■もくじ

バカの少女たち 森の小さな〈ハンター〉たち――狩猟採集民の子どもの民族誌
亀井伸孝

【もくじ】

はじめに――人類学者、森の子どもたちに弟子入りする → [詳細]
第1章 狩猟採集民の子どもたち → [詳細]
第2章 子どもたちの仲間に入る → [詳細]
第3章 森の遊びとおもちゃの文化 → [詳細]
第4章 小さな狩猟採集民 → [詳細]
第5章 子どもたちのコスモロジー → [詳細]
第6章 子どもたちをとりまく時代 → [詳細]
第7章 狩猟採集社会における子どもの社会化 → [詳細]
補論 フィールドで絵を描こう――人文・社会科学におけるスケッチ・リテラシー → [詳細]
おわりに――狩猟採集民の子どもたちの未来 → [詳細]

文献
巻末付表
さくいん

【詳細なもくじ】

口絵

はじめに――人類学者、森の子どもたちに弟子入りする

もくじ

用語と表記について

第1章 狩猟採集民の子どもたち

1-1. 森の狩猟採集民バカ
森に入ってしまう子どもたち/狩猟採集民とは/ピグミー系狩猟採集民バカ

1-2. 教育のない社会で育つ子どもたち
放任的な社会における文化伝承/「遊び=教育」論と本書の問い

1-3. バカの子どもたちと出会うまで
子どもというテーマの模索/「はんぱな活動」の数かず/「子どもの民族誌」に挑む

1-4. 本書の対象と構成
バカの年齢階層/本書の構成

第2章 子どもたちの仲間に入る

2-1. 調査地の概要
調査開始!/東部州ンギリリ村のバカの集落

2-2. 子ども集団への参与観察
調査開始時の倫理的なためらい/乾季のファースト・コンタクト/定住集落でのオープンな住まい/「子どもたちの家」を作る/遊びとおしゃべり/「来たときよりもおもしろく」/「小さな仕事」

2-3. 調査地での困難と信頼関係
子どもたちに守られて森を歩く/さまざまな困難と安全の確保

2-4. 森のキャンプでの調査
深い森の中のキャンプへ同行する/森を使いこなす人びと/森の中の情報ネットワーク/星空を見ない文化

2-5. 子どもたちの日常生活の概要
子どもたちの1日/子どもの活動一覧/少年と少女の違い

第3章 森の遊びとおもちゃの文化

3-1. 遊びながら調査する
幸せな調査/遊びの収集

3-2. 遊びの数かず

生業活動に関わる遊び
狩猟に関わる遊び(わな/やり猟/果実の射的/投石/その他の狩猟に関わる遊び)/採集に関わる遊び/漁撈に関わる遊び(釣り/その他の漁撈に関わる遊び)

衣食住・家事・道具に関わる遊び
住居に関わる遊び/食生活・嗜好品に関わる遊び(調理ごっこ/ミニチュアのバナナ/その他の食生活・嗜好品に関わる遊び)/衣服・装飾に関わる遊び/家事・道具に関わる遊び

歌・踊り・音に関わる遊び
歌と踊り(「ベ」/その他の歌と踊りに関わる遊び)/楽器

近代的事物に関わる遊び
自動車に関わる遊び(モトゥカ/バナナのミニカー/その他の自動車に関わる遊び)/自動車以外のもの

ルールの確立したゲーム
マセエ/サッカー/ソンゴ

身体とその動きを楽しむ遊び
身体を使った遊び/身近な小物をもてあそぶもの

その他
動物に関わるもの/玩具/仕事のまね/造形

3-3. 遊びの諸相
おもちゃ作りのための素材/遊び場の使い分け/遊びのルール/性別・年齢と役割

3-4. 子どもたちの遊び創造能力
遊びに見られる特徴/遊びは教育なのか?

かい出し漁

第4章 小さな狩猟採集民

4-1. 生業活動への「遊戯性アプローチ」
遊びと生業活動を架橋する/狩猟採集民の子どもの生業活動/狩猟採集活動の遊戯性/カイヨワの「普遍文法」

4-2. 子どもたちの生業活動
バカの生業活動/活動参加頻度と集団の年齢構成

4-3. 狩猟
バカにおける狩猟/子どもが行う狩猟/子どもの狩猟方法/狩猟集団の特徴/狩猟の中の役割/狩猟の成果/狩猟に関連する遊び/狩猟の遊戯性/おとなの関与/おとなの狩猟への同行/まとめ――子どもたちの狩猟

4-4. 採集
バカにおける採集/子どもの採集品目と方法/採集品目の傾向と成果/少年の採集と少女の採集/採集における役割/採集と遊び/採集の遊戯性/おとなの関与/おとな・青年の採集への同行/まとめ――子どもたちの採集

4-5. 漁撈 (1) 釣り
バカにおける釣り/子どもの釣り/釣りの成果/釣りの遊戯性/おとな・青年との同行/まとめ――子どもたちの釣り

4-6. 漁撈 (2) かいだし漁
バカにおけるかいだし漁/子どものかいだし漁とおとな・青年とのかいだし漁/性年齢と役割/かいだし漁における成果/かいだし漁の遊戯性/おとな・青年との同行/まとめ――子どもたちのかいだし漁

4-7. 農耕
バカにおける農耕/子どもの農耕/子どもが参加する農耕集団の特徴/子どもの農耕へのおとなの関与/おとなの農耕への同行/農耕における子どもの役割/農耕の遊戯性/まとめ――子どもたちの農耕

4-8. 非生計貢献型生業活動
生計に貢献しない生業活動の数かず/各年齢階層における参加活動タイプ

第5章 子どもたちのコスモロジー

5-1. 子どもたちの見た森――迷子と精霊
迷子になる危険性/行動距離と行動範囲/森の魅力と恐怖/出発と同行――集団形成の背景

5-2. 子どもの食生活と食物分配
狩猟採集社会における食物分配/集落での食事と間食/非生計貢献型生業活動の成果の分配/釣りの魚の分配/かいだし漁の魚の分配/子どもによる食物分配の諸相(子ども以外への食物分配/食物でない物の分配/食物分配の指示)/見え隠れする本音――食物をめぐる語りから

5-3. 少年と少女の活動仲間
落ち着いている少女、落ち着きがない少年/ある少年の1日/水浴びという楽しい余暇活動/水浴びに出かける仲間/漁撈に出かける仲間/少年と少女の有償労働/おとなにおける行動の性差

5-4. 子どもたちの居住空間
青年や子どもが雑居する家/バカの社会の流動性と子どもたち

第6章 子どもたちをとりまく時代

6-1. バカの子どもたちと学校
朝の校庭の風景/学校に行かない6つの理由

6-2. 教育プロジェクトの概要
教育プロジェクトの展開/授業と教材

6-3. 集落滞在期の子どもたち
生徒数/出席の状況/学校に行かない理由/公立学校への進学

6-4. 狩猟採集期の子どもたち
乾季の訪れと寄宿舎計画/乾季休暇の導入――ひとつの妥協

6-5. 学校の達成と未達成
障壁は取り払われたか/都市型マイノリティとの違い/そして、毎朝のおしりの歌

第7章 狩猟採集社会における子どもの社会化

7-1. 非生計貢献型生業活動と遊戯性の機能
非生計貢献型生業活動の性格/4つの遊戯性の機能

7-2. 子どもたちの社会化における4つのプロセス
森の中の「正統的周辺参加」((1) 子どもが実践共同体へと参加する/(2) 生業活動の遊戯性に魅せられる/(3) 少年と少女とで集まりと役割が分かれていく/(4) おとなの実践共同体に接続される)/おとなは何もしないのか

7-3. 結語
「遊び=教育」論の再考/導かれた仮説/人類進化における理論的な課題

補論 フィールドで絵を描こう――人文・社会科学におけるスケッチ・リテラシー

1. はじめに――ヒト、絵を描く

2. なぜ人文・社会科学におけるスケッチか
人文・社会科学における文字の優位性と課題/自然科学におけるスケッチの伝統/スケッチの定義と特徴

3. 社会調査法としてのスケッチ
大学でのスケッチ教育/社会調査とスケッチの出会い/社会調査におけるスケッチのタイプ/
社会調査におけるスケッチの有用性

[有用性1]対象の正確な理解
[有用性2]対象の正確な記録
[有用性3]ラポールの形成
[有用性4]資料収集の円滑化
[有用性5]データベースの形成
[有用性6]表現の明解化
社会調査におけるスケッチの短所

4. スケッチは提言する
基礎的リテラシー教育にスケッチを――教育の革新/文字中心主義を超えて――記述形式の革新/アニメーションとの連携――表現手法の革新/固有性依存からの脱却――民族誌の革新

5. おわりに――新しいリテラシー教育に向けて

おわりに――狩猟採集民の子どもたちの未来

文献

巻末付表
巻末付表1 子どもが参加した狩猟の事例一覧
巻末付表2 子どもが参加した採集の事例一覧
巻末付表3 子どもが参加した釣りの事例一覧
巻末付表4 子どもが参加したかいだし漁の事例一覧
巻末付表5 子どもが参加した農耕の事例一覧

さくいん
事項さくいん/人名さくいん


■図/写真一覧

準備中


■本書への補足

・本書は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・アジア・アフリカ言語文化叢書49として刊行されました。

・本書3章で紹介した、踏み台昇降の「アエ・アエ・ギメ・ギメ」のダンスは、正確には1996年にカメルーンで調査を行った山内太郎准教授(北海道大学大学院保健科学院、当時東京大学大学院生)の発案であることが分かりましたので、付記いたします。


■読者別・本書のおすすめの使い方

準備中


■関連日記(ジンルイ日記から)

■日本野外教育学会での招待講演 (2010/06/19)
■マイ文庫の設置 (2010/04/08)
■『森の小さな〈ハンター〉たち』、野田正彰氏が長文書評 (2010/04/05)
■研究室の大減量作戦 (2010/04/03)
■『森の小さな〈ハンター〉たち』週刊朝日で紹介 (2010/03/30)
■切手のない分厚いおくりもの (2010/03/23)
■博士論文の刊行報告 (2010/03/21)
■『森の小さな〈ハンター〉たち』刊行を楽しみに (2010/02/04)
■「視覚言語リテラシー」のシンポジウム (2010/02/02)
■今しかできない苦労がある (2010/01/29)
■JAL破綻の報を聞きながらアフリカの森を思う (2010/01/19)
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